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eスポーツって、何ですか? eスポーツ観戦歴10年のベテランに「ゲームを観る」楽しさを教えてもらった

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ほぼ毎日格闘ゲームをプレイするほど格闘ゲームが好きなライターのイッコウです。過去にeスポーツに関する取材などもしてきました。

ところでeスポーツとは、ゲームをスポーツ競技のように捉えた際に使われる言葉。昨今、世界的な盛り上がりを見せており、昨年は日本でもゲーマーのプロライセンスが発行され、数多くのeスポーツリーグが設立されました。

白熱するeスポーツの試合の様子

しかし一方で、何らかのeスポーツの試合を実際に観戦したことがある人は少ないのが実情。聞くところによると、大会などに足を運ぶ層は、自身もeスポーツのプレイヤーであることが多いとか。

もったいない! eスポーツには、国やチームを背負ったヒューマンドラマがあったり、人間業とは思えない才能を持つ選手がいたり、あまりゲームになじみのない人にも楽しめる要素がもりだくさんなのです。

こんなに面白いのに、なぜeスポーツ観戦はまだ浸透していないのか。eスポーツ観戦の魅力をもっと多くの人に知ってほしい……!


そこで今回は、「ゲームはやるだけでなく、観る楽しみ方もある」と力強く語り、格闘ゲームを中心に約10年の観戦歴を持つeスポーツマニアの白水さんをお招きして、「eスポーツ観戦の魅力」についてお話してきました。

eスポーツって結局、何? eスポーツ観戦は何が面白いの? という方はぜひ参考にしてみてください。

【目次】
  • eスポーツとは競技化した「ゲーム」のこと
  • eスポーツ観戦の魅力は「日本 vs 世界」の熾烈な争いと、選手の人間ドラマ
  • eスポーツ観戦を始めるなら、お気に入りの選手を見つけよう
    • (1)ソニック・フォックス
    • (2)梅原大吾
  • eスポーツ観戦にハマったきっかけは、世界で活躍する日本人選手
  • 選手情報を自力でかき集め、さらにeスポーツ観戦の沼にハマる


eスポーツとは競技化した「ゲーム」のこと。対戦格闘ゲームやパズルゲームなど、種類はさまざま

―― 近年、急速に「eスポーツ」という言葉を耳にする機会が増えました。そもそも「eスポーツ」とは何を意味する言葉なんでしょうか。

ゲームを競技として捉える際に使われる言葉、でしょうか。

何か特定の一つのゲームを指しているわけではなく、スポーツの中に野球やサッカーがあるのと同じように、eスポーツにも『鉄拳』などの対戦格闘ゲームから『ぷよぷよ』などのパズルゲームまでさまざまある。eスポーツという言葉は、あくまで呼称の一つだと考えていいと思います。

この日の取材は遠隔で実施

「鉄拳」を詳しく見る
「ぷよぷよ」を詳しく見る


―― 昨年は日本でもプロライセンスの発行やeスポーツリーグ設立の動きがさかんにあり、「eスポーツ元年」なんていう言葉も叫ばれました。こうした盛り上がりにはどういった背景があるのでしょうか。

一概には言えないのですが、個人的には日本人選手の活躍によるところが大きいのかなと思います。僕は格闘ゲームばかり観ているのですが、格闘ゲームというのは『鉄拳』にしろ『ストリートファイター』にしろ、日本生まれのタイトルが非常に多く、日本人が強さを発揮しやすい競技。例えば、梅原大吾さんも格闘ゲーマーですよね。

だから、eスポーツが世界的に広がる中で、格闘ゲームなどで日本人ゲーマーの活躍が続き、近年そういったプレイヤーが国内でも広く注目を集め始めたことが一つの要因かなと。

【eスポーツ人物事典】

梅原大吾……日本を代表するプロゲーマー。1990年代から活躍を続けているパイオニアの一人であり、2D対戦型格闘ゲームで多数のタイトルを獲得してきたレジェンドプレイヤー

「ストリートファイター」を詳しく見る


eスポーツ観戦の魅力は「日本 vs 世界」の熾烈な争いと、選手の人間ドラマ

―― eスポーツ観戦歴が10年という白水さんにとって、eスポーツの魅力というのは、一体どこにあるのでしょうか。

一つは、日本人選手と海外選手の熾烈な戦いでしょうか。格闘ゲームの世界では「日本 vs 世界」という構図があるように思います。なぜなら、eスポーツの競技として人気のある格闘ゲームは日本生まれのタイトルが多いですから。

例えば、世界最大の格闘ゲームの大会に、アメリカのラスベガスで開催されている「EVO」がありますが、その人気競技の一つである『ストリートファイター』の歴代優勝者を辿ると日本人が多く、開催国のアメリカ人選手の優勝はここ数年はない。一般的なスポーツの世界では、あまり見られない光景ですよね。

「日本生まれのゲームで負けられない」日本人選手と、「悲願の優勝を目指す」海外勢。このプライドを賭けた戦いは非常にエキサイティングです。

【eスポーツ用語集】

EVO……The Evolution Championship Series。1995年より開催されている世界最大級の格闘ゲームの大会。2018年より日本大会も開催されている


―― 確かに、その勢力図はeスポーツならではかもしれません。

もう一つは、僕の場合はあまり自分でゲームをやらないからかもしれませんが、超絶テクニックなどではなく、選手たちの人間ドラマに魅力を感じることが多いです。

例えば、パキスタンのアルスラン・アッシュ選手は、もともと国際情勢や経済的な事情から「EVO」には出場することすら難しかった。ラジオ出演した際にインタビューさせていただく機会に恵まれたのですが、「将来の目標は?」と聞いたときに、「EVO優勝」ではなく「EVO出場」と答えたことからも、それは明らかです。

しかしそれでも時には借金をしてでもプレイを続け、ようやくスポンサーが付き、海外遠征の夢が叶った「EVO JAPAN」と「EVO」の場で、今年優勝! eスポーツドリームとでも言うべき展開に、その瞬間は涙なしには観られませんでした。

【eスポーツ人物事典】

アルスラン・アッシュ……パキスタン出身のプロゲーマー。世界最大級の格闘ゲームの大会「EVO Japan 2019」の『鉄拳7』部門で優勝。これまでパキスタンはeスポーツ未開の地と思われていたため、大きな話題を呼んだ
ドキュメンタリー映像もつくられている。21:00~、EVO優勝時の様子が収録されている

―― そうした背景があったのですね。これまで観てきた中で、具体的に印象的だった試合はありますか?

非常にたくさんありますが、「日本 vs 世界」の構図が色濃く出た試合として、EVO2017の『ストリートファイターV』部門の決勝「パンク対ときど」は強く印象に残っています。

というのも、2017年のパンクは圧倒的な強さを誇っていて、界隈ではそのあまりの強さに「宇宙からやってきたゲーム星人なんじゃないか」なんてこともささやかれていたほど。そんな中、大会中にアメリカのレジェンドプレイヤーのジャスティン・ウォンが「パンクを倒せるとしたらときどしかいない」とツイートしたんです。

【eスポーツ人物事典】

パンク……アメリカの若きスーパースター。EVO2017では驚異的な反応速度を武器に勝利を積み重ねていき、決勝であたったときど選手に対決。しかし、その驚異的反応速度が仇となる形で敗北した。現在は更なる成長を遂げ、「ストリートファイター」シリーズの公式ランキングで1位に輝いている

ジャスティン・ウォン……現在もトッププロとして活躍するアメリカのレジェンド格闘ゲーマー。EVO2004の準決勝で梅原選手と戦ったことでも有名。この戦いでの梅原選手の逆転は「背水の逆転劇」と呼ばれファンの間で語り継がれている


否が応でも注目が集まる中、ときどさんは最初の戦いで一度負ける。しかし、その後敗者復活戦から勝ち上がり、見事に決勝でパンクを倒して優勝。その瞬間は、「地球は救われました……ありがとうございました……!」と本気で思いました。

ときどは「豪鬼(AKUMA)」、パンクは「かりん(KARIN)」を選択。完璧に近い試合内容を見せた
敗戦直後、悲願のアメリカ人初優勝(ストリートファイター部門)を逃したと悔しさを滲ませている

eスポーツ観戦を始めるなら、お気に入りの選手を見つけよう

―― では、これから「eスポーツ観戦」を始めようと考えている人は、何を入り口にするのがいいでしょうか。

実際に僕がそうであるように、自分であまりゲームをやらない人も、「好きな選手」を見つけられれば楽しめると思うんですよね。

僭越ながらわたしの推し選手として、海外勢と日本人選手で一人ずつ、ご紹介させていただきます。

(1)圧倒的な才能! ソニック・フォックス

21歳の若さですでにEVOで5度の優勝があり、さまざまなゲームメディアが選ぶ「The Game Awards」でベストeスポーツプレイヤーにも選ばれた天才です。

普通の選手は取り組む競技を自分の得意なものいくつかに絞るものなんですが、彼の場合は非常に幅広い競技で結果を残しているところが驚き! プレイしている姿からは心の底からゲームを楽しんでいる様子が伝わってきて、好きがゆえに圧倒的な実力を身に付けたのではないかと思わされます。

日本のGO1選手とのライバル関係でもよく知られていて、2019年のEVO決勝戦での立ち振る舞いには、ソニック・フォックスの魅力が詰まっているので、ぜひ観ていただきたいです。

10分58秒~、決勝戦でのGO1選手との対戦が決まり椅子を叩いて喜ぶ姿が印象的
競技は「ドラゴンボールファイターズ」。勝敗が決した際の二人の姿に注目

「ドラゴンボールファイターズ」を詳しく見る

(2)日本eスポーツシーンのパイオニアの一人! 梅原大吾

僕がeスポーツに関する一切の知識がないときに惹きつけられたのが梅原大吾選手です。17歳にして『ストリートファイターZERO3』の世界大会で初優勝し、その後は「Daigo the beast」の愛称で20年以上もの長きにわたり世界で戦うレジェンドプレイヤー。

特に有名なのは2004年のEVOでの「背水の逆転劇」。残りわずかなところから奇跡の逆転劇を演じてみせ、このときの様子を収めた動画は「最も視聴されたビデオゲームの試合」としてギネス記録にも認定されています。日本のプロ格闘ゲーマーへの道を切り開いたパイオニアですから、まずは梅原さんの試合を観るのが良いと思います。

今も語り草になっているEVO 2004での一戦。会場の熱気が伝わってくる
YouTubeチャンネル「Daigo the beasTV」で配信された「獣道」という企画での一戦。「10先(じゅっさき)」と呼ばれる10本先取形式の試合を行った

ほかの選手も気になる!という人は、大会直前に海外勢含め、注目選手などはブログにまとめると思うので、そちらも覗いてみてくれるとうれしいです(笑)。

eスポーツ観戦にハマったきっかけは、世界で活躍する日本人選手

―― ここまで白水さんが思われるeスポーツ観戦の魅力について聞いてきました。では、そもそもeスポーツ、とりわけ対戦格闘ゲームの観戦にここまでハマったきっかけは何だったのでしょうか。

2010年ごろ、ニコニコ動画で「『スーパーストリートファイターIV』オンライン対戦会」という番組を観たのがきっかけだったと思います。

その番組には先述した梅原大吾さんを筆頭に、今も活躍されているプロゲーマーのときどさん、マゴさんも出場されていて、単純に「日本にこんなに面白い人たちがいるのか!」とすごく興味を持ちました。

【eスポーツ人物事典】

ときど……日本を代表するトッププロゲーマーの一人。東京大学出身。2017年、当時破竹の勢いで活躍していたアメリカのパンクと対戦し、劇的な展開を経て世界一に輝いたことでも知られる。現在も『ストリートファイターV』の公式ランキングでは上位にランクイン。「ストリートファイター」シリーズのキャラクター「豪鬼」がトレードマーク

マゴ……2000年代から現在にいたるまで活躍を続けるトッププロゲーマー。キャラクターの長所・短所を調べ尽くし、理詰めで攻略をすすめる理論派であり、実力はもちろん人気も国内トップクラス


その後、「Canada Cup Gaming」というカナダで行われるeスポーツの大会に梅原さんたちが出場すると知り、試しに配信を観てみたらすごく感動してしまったんですよね。



カナダ開催のeスポーツ大会「Canada Cup Gaming」


―― どういうことですか?

決勝戦が梅原大吾さんとマゴさんの日本人対決だったんです。つまり、そこに至るまでに並み居る海外の選手を次々に倒していったわけですが、その勝ち上がっていくさまが本当にかっこよかった。当時は格闘ゲームにおいて、日本人選手の強さは圧倒的だったんですね。

あと決勝戦を観ていて、異国の地で日本人選手二人が大喝采を浴びている様子も胸を打つものがありました。


選手情報を自力でかき集め、さらにeスポーツ観戦の沼にハマる

―― その後ほどなくして、本格的に情報収集を始められたと。

そうですね。ただそこからが大変で。

当時の海外大会では、スケジュール表やトーナメント表、対戦中の選手の名前とかが放送中に表示されなかったんです。大会の運営が、インターネット経由の観戦者に意識を割くという文化自体がほとんどなかったんですね。

だから、わたしはサイトに設けられたコメント欄やチャットスペースを凝視し、ひたすら誰かが打ち込んでくれた言葉を検索にかけ、情報をかき集めるという日々を送りました。今は便利な時代になりましたよ、本当に……。


―― もともと外国語はお得意だったんですか?

全くだめです、英検準2級にギリギリ合格できるぐらい(笑)。だから、知らない単語を見つけては翻訳サイトにかけるの連続ですよ。

しかも、普通の英語なら翻訳でなんとか解決できるんですが、ゲームシーンには独特のスラングがありますし、必ずしも英語圏のユーザーばかりじゃないから本当に苦労しました。


―― 2014年ごろからは情報を集めるだけでなく、“発信”されるようにもなりましたよね。何かきっかけはあったんですか。

先ほど述べたように、2010年代初頭は基本的に日本人選手が世界の舞台で非常に強かったんです。しかし、2014年ごろになると、日本人選手と海外選手の実力差が縮まってきた。

そこで誰に頼まれたわけでもありませんが、「これまで素晴らしい瞬間を見せてくださった日本人選手に少しでも恩返しがしたい!」という気持ちから、情報の少ない海外勢の情報を中心に、わたしからプレイヤーの方に情報提供したり、ブログやSNSなどで発信したりするようになったんです。

その頃にはすっかりのめり込み、自分にとって格闘ゲームの観戦は生きる上での支えのようになっていましたから。


サイン帳。数々の日本のプロゲーマーたちのサインが記されている
格闘ゲームファンが集うイベント「KVO」の参加証。ファン同士のイベントにもよく足を運ぶそう

「サイン帳」を詳しく見る


―― 凄まじい熱量です……! そういえば白水さんは“格ゲー自宅諜報員”とも呼ばれていますよね。

ラジオ『アフター6ジャンクション』で海外のプロゲーマーにインタビューさせていただいたことがあったのですが、そのときにスタッフさんに“格ゲー自宅諜報員”と付けていただいただけで、自分から名乗ったわけではありません(笑)。


白水さん特製の情報ファイル。ブログ以外にも、このように書類にまとめることも多いという

「ファイル」を詳しく見る


―― ラジオ出演された際には、パキスタンのゲームシーンについても解説されていました。日本やアメリカならまだしも、パキスタンの情報まで集められていることに非常に驚いたのですが。

先ほど紹介した、国際情勢や経済的な事情からEVOへの出場すら難しかったアルスラン・アッシュ選手には強い興味を持っていましたので。というのも、「EVO Japan 2019」の『鉄拳7』部門で優勝した際に、彼が「パキスタンには強い奴がたくさんいる」といった趣旨の発言をしたんです。そこから気になって、彼のインタビュー動画に掲載されていた英語字幕をGoogle翻訳にかけたり、そこに出てくる単語をひたすら検索にかけたりして調べました。


―― す、すご過ぎる……! ちなみに白水さんご自身は、ゲームはやらないのでしょうか?

もともと多少はやっていましたけど、今は観るべき大会が多くなり過ぎて、ゲームをやっている暇が全くありません。正直、今はゲームをやる時間を、ゲームの観戦に割きたいんです。


―― なんだか本末転倒な気もしますが……それだけeスポーツの観戦には魅力が詰まっているということですね! 最後に、直近でおすすめの大会はありますか?

今日のお話にも何度も登場している大会ですが、2020年1月に幕張メッセで開催される「EVO Japan」がおすすめです。『ストリートファイターV』や『鉄拳7』など、人気の種目が6つほどラインアップされており、ここには世界からトップゲーマーが集まるはず。

もちろんネット配信も行われますので、会場に足を運ぶのが億劫という人もぜひ一度観ていただけると、その魅力に気付いてもらえると思います!



お話を聞いた人:白水さん

格闘ゲーム大会のインターネット配信の視聴者。格闘ゲームを取り扱う海外の大会や海外の選手の情報を収集する。近年は、それらの情報をブログやSNSを中心に発信している。

ブログ:白水(Shiramizu&Shirauzutaisa)のブログ
Twitter:@shirauzutaisa


聞き手:イッコウ

ねとらぼ編集部所属のライター&編集者。ほぼ毎日格闘ゲームをプレイする生粋の格闘ゲーマーで、たまに都内の対戦会にも出没する。イチオシの格闘ゲームは「ドラゴンボール ファイターズ」。