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低温調理器デビューしませんか? 低温調理マニア・Nickさんに聞く、低温調理の基本と失敗しないコツ

低温調理マニア・Nickさんが、初心者向けに低温調理器を解説します。Anova(アノーバ)などの低温調理器の登場により、家庭でも低温調理を手軽に楽しめるようになりました。低温調理器はもちろんのこと、低温調理の基本的な工程、低温調理に適した食材、失敗しないコツを紹介します。

ここ数年、Anova(アノーバ)をはじめとする「低温調理器」が話題ですが、皆さんは使ったことがありますか? 肉や魚を低温で長時間加熱する低温調理のための調理器として、一般家庭に普及しつつあります。


低温調理器に興味はあるけれど、“焼く”や“煮る”といった従来の調理法とあまりにも違い過ぎてどうしたらいいか分からない……という人も多いのでは。


そこで今回、低温調理に関するブログを執筆しているNickさんにお願いして、初心者向けに

  • 低温調理の基本
  • おすすめの低温調理器
  • 低温調理に適した食材
  • 低温調理で失敗しないコツ
  • 低温調理レシピ

まで詳しくお話を伺いました。

食材ごとの温度モニタリングのデータなど、低温調理の深い世界を紹介するNickさんのブログ
食材ごとの温度モニタリングのデータなど、低温調理の深い世界を紹介するNickさんのブログ

「低温調理」は真空調理のこと。独特のしっとりした食感が特徴

低温調理に関するブログを執筆するNickさん
低温調理に関するブログを執筆するNickさん

―― ここ数年、「低温調理」という調理法をよく目にするようになりました。そもそもどんな調理法なのでしょうか。

低温調理は食材をフリーザーバッグやナイロン袋などに入れて密閉し、それを湯煎して加熱する調理法です。40℃台から60℃台くらいの比較的低温で加熱することが多いため、低温調理と呼ばれています。

実は「低温調理」という言葉は日本独特な表現なんです。世界ではスーヴィード(Sous Vide)といいます。つまり、「真空調理」です。真空というだけあって、この調理法の本来のポイントは食材を密閉して温度をコントロールするという部分なんです。それがなぜか日本では温度の部分が強調されているのです。


―― 低温調理で作られた料理の特徴はどのようなものでしょう。

低温調理では、従来の調理法ではあり得なかった独特のしっとりした食感になるのが特徴ですね。しっとりジューシーに仕上がり、初めて食べる方は新感覚過ぎてかなり驚かれます。


―― 最近はプロの料理人でなくても低温調理をする人が増えてきました。いつ頃から一般の家庭にも普及したのでしょうか。

低温調理は40年ほど前に誕生した調理法です。たいていの調理法がそうであるように、最初はレストランで使われていました。

フレンチでフォアグラやテリーヌが調理する過程で目減りするのを避けたり、肉質をジューシーに仕上げるために温度コントロールしたところから始まったそうです。

日本の家庭で低温調理されるようになったのは、おそらく2014年ごろでしょう。低温調理器「Anova」がクラウドファンディングで資金調達し、アメリカで販売を開始しました。もともと炊飯器で似たことをやっていた人もいたのですが、Anovaが登場してから増えてきたように感じます


――Nickさんご自身はいつ頃、どういったきっかけで低温調理を始められたのでしょう。

僕は2016年ごろに始めました。良い豚肉が手に入ったので、ローストポークを作って少しずつ食べようと考えたのです。最初は炊飯器で作ろうとしたのですが、うまくいかなくて、いろいろ調べた結果、低温調理に行き着きました。

低温調理の工程は「食材を密閉して、低温で加熱する」

低温調理に関するブログを執筆するNickさん

―― 低温調理の基本的な作り方について教えてください。

例えば鶏胸肉だとしましょう。基本的な低温調理の流れは、

  1. フリーザーバッグなどの袋に食材を入れる
  2. 食材まわりの空気を追い出すために、オリーブオイルなどを入れ、袋の下部1/2~2/3を水に沈めて密閉する
  3. それを湯煎する

です。するとまず袋に熱が伝わり、次にオイル、最後に肉に熱が伝わっていきます。

低温調理。左から空気を抜く様子、湯煎、加熱した鶏むね肉の様子
左から空気を抜く様子、湯煎、加熱した鶏むね肉の様子

肉は加熱すると縮み、水分が出てきます。低温調理では袋で密閉されているため、水分が逃げず、結果的に「煮る」「蒸す」に近い状態になるのです。

低温調理におすすめの食材は、「煮る」「蒸す」調理に適したもの。まずは鶏肉やサーモンから始めよう

―― 低温調理に適した食材はどんなものでしょうか。

やはり、煮たり蒸したりするとおいしくなる食材は低温調理に向いています。逆に水分を抜かないといけない料理を再現することは難しいですね。個人的な好みではありますが、ロースト系やコンフィには向いていないと思いますし、フライなんかはどうやっても無理ですね(笑)。

鶏肉、サーモンあたりは初心者向きの食材でしょう。

低温調理をするなら、初心者向けは鶏肉やサーモン
低温調理したサーモン

個人的には水だこを低温調理でミキュイ(半生)にするのが好きですね。他にも赤ワイン煮込みやしぐれ煮なども肉がジューシーに仕上がるのでおすすめです。少量の濃いソースの中で煮る料理は低温調理に向いています。

低温調理器は「Anova」がおすすめ。食材を密閉する袋は「高密度ポリエチレンのポリ袋」を使おう

―― 低温調理をする上でそろえた方がいい調理器具は何ですか?

低温調理ではしっかり温度と時間をコントロールしないと加熱殺菌しきれず食中毒などのリスクにつながりますから、やはりAnovaのような専用器具はあった方がいいでしょう

炊飯器でもできなくはないのですが、水を撹拌(かくはん)できないと熱ムラができて、食材のまわりだけ温度が低くなることもあります。

低温調理器Anova
低温調理器Anova

Anovaはヒーターとファンと温度計が一体になっていて、水を撹拌しながら指定した温度まで温めてくれます。Anovaのヒット以来、同じような器具はいろいろ出てきているのですが、やはり老舗で実績のある「Anova」をおすすめします。ちなみにAnovaはプラグが海外仕様なので、国内用に変換するプラグが必要になります。


それから、できればもう1本「温度計」を使って、湯煎中の水温を計測した方がいいですね。万が一Anovaの温度表示にトラブルがあった場合のダブルチェックに使えます。慣れれば仕上がった食材に包丁を入れた瞬間、触感や見た目で「加熱がうまくいっているぞ」と分かるようになります。

温度計
温度計


僕は必要に応じて、「オーブン用の温度計」や「サーモグラフィー」も使います

左からサーモグラフィー、オーブン用の温度計、温度計、低温調理器Anova
左からサーモグラフィー、オーブン用の温度計、温度計、低温調理器Anova

オーブン用の温度計は、湯煎中に「食材の中心温度」を測るためのものです。ただし、耐水ではないので注意が必要です。また低温調理で強調されるニオイを取るために事前に塩ゆでなどをすることもあるのですが、サーモグラフィーはその際の水温を測るために使っています。


―― 食材をくるむ袋にもポイントがあるでしょうか。

材質が「高密度ポリエチレン」のポリ袋を使います。

というのもポリ袋には、材質が

  • 高密度ポリエチレン
  • 低密度ポリエチレン

のものがあります。そして、低密度ポリエチレンだと素材を長時間加熱すると化学物質が溶け出してしまうこともあり危険なので、耐熱性が高い高密度ポリエチレンのポリ袋を選んでください

材質については商品パッケージに記載があると思います。あとはあくまでも簡易な判定法ですが、手触りでも分かります。厚いなら高密度ポリエチレンで、ペラペラならたいてい低密度ポリエチレンです。


―― 湯煎にはどんな調理器具がおすすめですか。

湯煎する鍋は深くて大きなものがいいですね。小さい鍋だと食材でギチギチになってしまい、水流が起きにくくなります。

低温調理には底が深い鍋をAnova

ただし、あまりにも深過ぎると今度はAnovaが届かず底の方が撹拌されずに熱ムラが起きるので、それも注意してください。Anovaには「だいたいこれくらいまで漬ける」という目安が書いてあるので参考にしてください。

ちなみに釣りなどで使う巨大なクーラーボックスを利用する人もいますよ。蓋をくり抜いてAnovaを刺して使っているようです。要するに安定して水流が起こせればいいわけですからね。

低温調理で注意すべきは安全面。食材の中心温度が63℃に達してから30分間加熱する

―― 調理する上で注意すべきポイントや初心者が陥りやすい失敗ポイントがあれば教えてください。

低温調理でよくある失敗は2つで、

  • 美味しくなかった、ということと
  • 安全面の失敗

です。絶対に避けないといけないのは安全面ですよね。これには主に食中毒と化学物質による中毒が考えられます。


化学物質は、先ほど申し上げた袋の熱耐性が原因のことが多いです。耐熱性の低い袋を加熱し過ぎることで化学物質が出てしまいますので、耐熱性の高い袋を使いましょう。

問題は細菌や寄生虫による食中毒です。厚生省では、豚肉の加熱殺菌の基準を63℃で30分以上加熱としていますが、ここに落とし穴があります。

63℃のお湯に30分沈めればいいわけではなく、食材の中心温度が63℃に達してから30分間加熱しないといけないのです。


中心温度が63℃に達する時間は食材の厚みや脂分の量によっても変わります。これについては、アメリカの数学者・ボールドウィンが、食材の形と加熱温度から中心が規定温度に達する時間を導き出す式を作ってくれています。

僕のブログでも紹介しているので、そちらを見てください。僕も実際に確かめてみたのですが、かなり正確なので便利ですよ。


―― 「美味しくない」失敗はどう回避すればいいでしょう。

低温調理で美味しくない場合というのは、まず食材のニオイが強調されてしまったケースが考えられます。

これは低温調理の特性上、仕方のないことなので、

  • 低温調理の前に食材を塩ゆでするなどしてニオイを抜く
  • スパイスやハーブなどの香りの強い食材と一緒に湯煎にかけ別の香りでマスクする
  • 調理後にソースなどで別の香りをつける

などしましょう。


もう一つの失敗は、作ってみたが食感が自分に合わないというものです。

そもそも「食感を均一にしたいか」どうかを考えてましょう。というのも現代人の舌は、ある程度食感のムラがあった方がおいしいと感じるものだからです。真空調理以外の伝統的な調理法だと料理はそのように仕上がるので、現代人はそれを「おいしい」と感じるようになっているのだと思います。

低温調理は均一な食感に仕上がりますから、それが嫌ならもともと低温調理すべきではなかったということになります。

初心者におすすめの低温調理レシピ3つ

―― ここでおすすめの低温調理レシピを教えてください。

「水だこのミキュイ バジルとグレープフルーツのソース・ヴィネグレット」「地鶏ムネ肉のカルパッチョ風」「牛スネ肉の時雨煮」のレシピをご紹介します。

1.水だこのミキュイ バジルとグレープフルーツのソース・ヴィネグレット

低温調理レシピ「水だこのミキュイ バジルとグレープフルーツのソース・ヴィネグレット」

<材料>

  • 水だこ(生の刺身用)……200~300g
  • ほうじ茶……700g
  • オリーブオイル……20g
  • ソース・ヴィネグレット
    • EXVオリーブオイル……60g
    • グレープフルーツ果汁(搾りたて)……30g
    • バジル……大きな葉10枚分
    • セルフィーユ……3組の大きな葉6枚分
    • 塩……1.8g

<作り方>

  1. Anovaで湯温46.5度の水槽を作る
  2. 80度に熱したほうじ茶で水だこを霜降り(熱湯をかけたり熱湯に通したりする下ごしらえの1つ)する
  3. 食品用耐熱袋に水だことオリーブオイルを入れて密閉し、用意しておいた46.5度の水槽で20分間湯煎する
  4. 湯煎が終わったら1.5Lの氷水で袋ごと40分以上急冷する
  5. 次にソース・ヴィネグレットを作る。塩はグレープフルーツ果汁に入れて混ぜておき、バジルとセルフィーユはブレンダーの刃がうまく回るサイズまで小さく切っておく。それらとEXVオリーブオイルをブレンダーにかけ、葉をペースト状にし、全体を乳化させる
  6. 急冷後の水だこについているオイルをよく拭き取る。吸盤が付いていれば外して一個ずつに分け、身は薄切りにする
  7. それらをお皿に盛って、ソース・ヴィネグレットをかければ完成

2.地鶏ムネ肉のカルパッチョ風

低温調理レシピ「地鶏ムネ肉のカルパッチョ風」

<材料>

  • 地鶏ムネ肉(味の強い鶏肉で代用可)……250g(2cm厚)
  • オリーブオイル……20g
  • ブライン液
    • 冷水……500g
    • 塩……15g
    • 砂糖……10g
  • ソース
    • ドライアプリコット……6個
    • 白バルサミコ酢……60g
    • 水……適量
  • くるみ(ドライ)……6個
  • レモン……1/2
  • 大葉……1~2枚

<作り方>

  1. ジューシーに仕上げるためにブライン液の材料をよく混ぜ、そこにムネ肉を漬け込んで冷蔵庫で5時間冷やす
  2. Anovaで湯温62度の水槽を作る
  3. 食品用耐熱袋にムネ肉とオリーブオイルを入れて、用意しておいた水槽で50分間湯煎にかける
  4. 湯煎が終わったらたっぷりの氷水で袋ごと1時間急冷し、肉の芯までキンキンに冷やす
  5. アプリコットを5mm幅に薄切りし、白バルサミコ酢とともに中火にかける。酢の香りが飛んで甘味が出るまで(必要なら途中で水を足しながら)弱火で煮詰めてソースを作る
  6. レモンは皮を細かく削る。くるみと大葉は3~6mmほどに刻む
  7. ムネ肉についているオイルをよく拭き取り、薄切り(できれば削ぎ切り)してお皿に盛る
  8. 6で作ったレモン皮、くるみ、大葉を散らし、5のソースをかけて完成

3.牛スネ肉の時雨煮

低温調理レシピ「牛スネ肉の時雨煮」

<材料>

  • 牛スネ肉(出来れば黒毛和牛)……200g
  • 生姜……20g
  • 調味液A(マリネ用)
    • 醤油……30g
    • 日本酒……15g
    • 酒……15g
    • 砂糖……15g
  • 調味液B
    • 醤油……60g
    • みりん……45g
    • 酒……45g
    • 砂糖……10g
  • 水……適量
  • 小ネギ……(お好み)

<作り方>

  1. 調味液Aをよく混ぜ合わせ、スネ肉を24時間マリネする(漬け込む)
  2. 110度に予熱したオーブンでマリネ後のスネ肉をローストしてカラカラに乾かす(90分〜120分)。乾いたら好みのサイズに細切りする
  3. Anovaで湯温68度の水槽を作る
  4. (省略可)スネ肉を漬けていたマリネの液に適量(100~200g)の水を足して沸かし、ペーパーで漉(こ)す。漉した液体を50g程度まで煮詰める
  5. 千切りにした生姜と調味液Bを合わせて鍋で加熱し、アルコールを飛ばす。4の液体を加えて、完成時の塩味よりも弱めに調整する
  6. 2のスネ肉と5を食品用耐熱袋に入れて68度で16~18時間湯煎にかける
  7. 最後にお好みで小口切りにした小ネギをかけて完成。温かい状態でぜひ


低温調理の魅力は“時間がかかる時短”による家事効率化

―― 低温調理では大量に作ることも多いと思いますが、保存はどのようにすればいいでしょうか。

低温調理したものを保存するには、まず冷やすことです。低温調理すると食材が密閉された状態で完成するので、それをそのまま氷水に入れて一気に冷やしてから冷蔵庫で保管するといいでしょう。ただ、氷は相当な量がないと冷えてくれないので注意してください。


―― 最後にNickさんにとっての低温調理の魅力についてあらためて教えてください。

低温調理は「家事の効率化」という意味でも魅力的です。同時にいろいろな食材を一度に調理できますし、仕込んだ後は放置すればいいので、時間はかかっても手間はかかりません

時間がかかるというのはポジティブな面もあるんですよ。中途半端に15分だけ待つとなると何もできませんが、2時間くらいかかるとその間に別のことができますからね。低温調理はいわば“時間がかかる時短”なんです(笑)

聞き手:山田井ユウキ

山田井ユウキ

フリーライター/カメラマン。得意ジャンルはゲーム、ワイン、IT、ガジェット、AIなどいろいろ。体を張った記事からBtoBの真面目な記事まで何でも書きます。

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