それどこ

すごい深海魚が釣れたので、魚をさばけるようになった友人(小林銅蟲)に調理させてみた

ブログ「野食ハンマープライス」管理人・茸本朗さんが深海魚釣りでGETした超高級魚を、マンガ家の小林銅蟲さんに調理してもらいました。

ユメカサゴ
「ユメカサゴ」と筆者

深海釣り」というジャンルの釣りがあります。

ざっくり説明すると「船に乗って沖に出て、水深200メートルよりも深いところに釣り糸を垂らして行う釣り」のことです。

(もう少し細かく「水深350mより深いところの魚を釣るのが深海釣り、それより浅いのは中深場釣り」だと主張する方もいます。ほか「超深海釣り」という、水深800m以深を攻める釣りもあります)

これらの釣りはいずれも専用の道具、専用の竿、専用の仕掛け、専門の船宿(もしくはプレジャーボートと操船してくれる船長)が必要となります。

時間も手間も、そして少なからぬ費用もかかる深海釣りですが、ここ数年ハマりこんでしまい、機会があるごとに友人のボートオーナーの金魚のフンとなりついて行っています。

なぜそんなものにハマっているのかというと、普段は食べることができない魚たちが手に入るからです。

深海釣りにハマるわけ

あらためまして、わたくし茸本朗(たけもとあきら)と申します。野外で採取したものを調理して食べ、味を評価する「野食ハンマープライス」というブログを運営しております。

「ミドリガメ(ミシシッピアカミミガメ)」
筆者のお気に入りはミドリガメ(ミシシッピアカミミガメ)

拙ブログはもともと「身近な環境で採れる食材を日々の食卓に利用することでエンゲル係数を下げる」という目的のもとスタートしており、そのようなコンセプトの書籍も出版しております。

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しかし最近では、筆者自身の「珍しいものを食べてみたい」「まだ知らない美味しい食材と出会いたい」という欲求が反映された記事が多く、当初のコンセプトからはかなりズレてきました。

そうして世間さまから「オイオイオイ……」「いつか死ぬわアイツ」と後ろ指をさされながらも、食べられそうなら何でも口に入れる日々を送っています。

ウミケムシ
「ウミケムシ」は調理に苦戦しました

そんな筆者にとって「深海釣り」はまさに「ヘンな/美味しい食材を手に入れる最も確実な方法」のひとつであり、ハマらずにはいられない趣味だったのです。

深海魚
上から「イバラヒゲ」「イバラヒゲの頭(サメにかじられた)」「ギス」「カナダダラ」

深海釣りでは「のどぐろ(アカムツ)」や「キンメダイ」といった、気軽には購入できない高級魚が狙えることに加え、ソコダラ類や深海ザメのような鮮魚店ではまず手に入らない魚たちもたくさん釣れます

一般的には外道(=本命以外の魚が釣れること)とされ、投棄されてしまうこれらの魚も、しっかり調理すればとても魅力的な食材になります。「どんな調理法が合うかな……」と頭をひねりながら、異形の魚たちに包丁を入れていくのは至高の楽しみなのです。

ヘンな深海魚を釣って、小林銅蟲先生に調理してもらおう

さて、今回「それどこ」への寄稿にあたり、せっかくなので当媒体でもおなじみの料理マンガ家・小林銅蟲先生とコラボレーションしてみることにしました。

先生には公私にわたり大変お世話になっているのですが、実は彼に魚の正しい三枚おろしを教えたのはぼくだったりします。ちなみにそれまでは包丁ではなくメスで魚をさばいていました。「その方が味があってよかった、茸本は余計なことをするな」なんて声もいただいております。大変遺憾に思うところであります。

まあそんなことはどうでもよくて、せっかくの機会なので今回は「茸本がヘンな深海魚を釣ってきて、先生がマスターしたての包丁技術を駆使しつつ、ヤバイ料理を作る」という企画をやっていくことにしました。

欲しいのはできるだけヘンな見た目、異形のシルエットをした魚たち。狙うははるか水深1,000mの海底。今回の本命は、深海釣りでは「最も厄介な外道」と思っている人が多そうな「ソコダラ」類です。

ソコダラ

ソコダラ類はタラ目の魚なのですが、深海底に生息する魚の中では最も個体数が多いと考えられており、確率論から考えても、「ベニアコウ(オオサガ・サンコウメヌケ)」や「アブラボウズ」といった「一般的な本命」よりも針に掛かりやすいです。

深海釣りでは仕掛けを海底に沈めるまでに10分以上、掛かった魚を巻き上げるのに数十分もかかるため、どんなに頑張っても1日に数回しか仕掛けを入れることができません。そのため仕掛けのハリ数を多くするのですが、それでもいったんソコダラが食いついたハリには本命の魚が食いつきません。

釣り人たちの間では非常に嫌われているのですが、逆にいえば「狙わずとも釣れる魚」であるということ。実際にこれまでソコダラがボウズ(何も釣れないこと)だった経験はなく、非常に気楽な気持ちでトライすることができます。

いざ海へ! 深海釣りに使う道具&釣り方を紹介

というわけで、深海釣りがどんな道具を使ってどんなふうに行われるのか、普段釣りをされない方にも分かるよう説明しつつ、当日の様子をレポートします。

竿

深海釣りに使う竿竿はアルファタックルの「DEEP CRUISER」


ご覧いただくと分かる通り、釣り竿というよりは武骨な棒切れといった趣ですが、水深1,000m以深を狙う深海釣りでは2㎏近いオモリを使うこともあり、丈夫かつ頑強でないとその責を果たすことができません。その上で、1,000m先のわずかな魚の引きをしっかりと捉えてくれる、非常に有能な竿なのです。

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リール

深海釣りに使うリール
リールはミヤエポックの「COMMAND X 9SP」

ランドセルのような見た目でクッソ重いですが、タコ糸のように太い糸を2,000mほど巻けます。また、深海釣りの水深は手で巻ける長さではないので、電動の糸巻き機能付き。バッテリーにつなぎモーターで巻き上げるのですが、魚の引きの強さに対して自動的に速度を調整してくれるなど非常に優秀です。

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糸&ハリ

上の写真では普通のカラフルなひもに見えますが、伸びが極めて小さい「PEライン」という特殊な糸です。通常のナイロン釣り糸だと、糸の伸びが魚の引きを吸収してしまい、アタリ(魚がエサに食いついたときの感触)が分からないのです。

深海釣りの用具の中では高価な方ではないのですが、それでも普通の釣り糸と比べると数倍する上、2㎞もの長さが必要なため地味に懐が痛い。金持ちになりたい……。

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深海釣りに使うハリ

糸の先に、普段の生活では目にすることのないほど大きいハリを数本結び、塩焼きになってもおかしくないサイズのサバの短冊をエサにして、15分ほどかけて海底まで落とします。

深海釣りはテクニックを要する

海底1,040mで深海釣り

いよいよ着底。その深さ1,040m。とんでもない深さです。糸の先にどんな世界が広がっているのか、ワクワクが止まりません。

しかし広い海の中、魚はどこにでもいるわけではありません。とくに起伏の少ない深海底は、地形図とにらめっこしながらピンポイントで魚のいる場所を推測しなければいけません。

さらに、着底させたらそれで終わりではなく、いったん50mほど巻き上げ、余計に出てしまった糸を巻き取る必要があります。そして再度糸を出し、着底。この後も巻き上げては落とし、着底を確認する「底取り」という動作を繰り返し行います。超深海釣りは、オモリが海底に着き、かつ糸がピンと張った状態でないと、魚のアタリをとれないからです。

超深海釣りの難しさを、ぼくは「ひもの先に鉛筆を結び、地図上の指定の場所に点を打つようなもの」と例えています。数10mの水深なら気軽に行える動作でも、超深海釣りとなるとこれもひと作業です。のんびりしているようでとても忙しく、そしてテクニカルな釣りといえるでしょう。

深海釣りに使う竿

深海底はエサが少ないため、「底が取れた」状態で待っていると、そのうちアタリが出ます。このとき、少し糸を出して仕掛けをたるませると、周囲にいる魚たちが残りのハリに食いついてくる「追い食い」が狙えます。

追加のアタリが確認できたら、リールの巻き上げスイッチを押して糸を回収。大きな魚がかかっている場合、半分ほど巻き上げたところでぐいぐいと引き込みを見せます。個人的には、水圧が半分になったところで苦しんで暴れるのではないかと考えているのですが、実際はどうなんでしょう……?

さて、今回は水深1000mなので、500mほど巻き上げたところでぐいぐいと引き込みが……


……来ないですね。

残念ながらエサがかじられただけで針掛かりには至らなかったようです。もう少しじっくりと待たないといけなかった。1回の上げ下ろしで1時間近くを消費する超深海釣り、無駄巻きは厳禁です。次回は気をつけねば。

全く釣れない……と思いきや「大本命」が釣れてしまう

深海釣り

そうして2投目、3投目と繰り返しますが…………全く釣れない。天気予報ではこの後、徐々に南風が強まりうねりが出る予報。そうなると撤収しないといけないため、チャンスはもうそれほどありません。

ここで船長から「もう少し岸に近いポイントで狙いましょう」という提案が。次のポイントは多少浅いですが、それでも水深は500m強。ソコダラをはじめ、多種多様な深海魚が釣れるレンジです。

深海釣り

仕掛けを下ろし、最初の回はノーフィッシュ。2回目は明確なアタリがあり、赤く輝く「ユメカサゴ」が釣れました。美しい深海魚ですが、正直なところあまりインパクトは……。

海の神様に祈りながら、おそらく最後の1投を海に入れます。

着底後、竿を引き込む強いアタリが! はやる心を抑え、しっかりと食い込ませてからリールのスイッチをオン。断続的に鈍重な引き込みがあり、リールは掃除機のような悲鳴を上げながら糸を巻き取っています。残り300mを切ったところで、力強くグッと竿がのされました。これはひょっとしてひょっとするかも……?

残り10mほどで突然ふっと軽くなり、糸が前方に向かってするすると伸びていきます。これは、大きな魚だと浮力がオモリに勝ち、浮き上がってくるからなのですが……。

アコウダイ

……やってしまった!!


今回の“本命”ソコダラではなく、一般的な深海釣りにおける本命中の本命、超高級魚の「アコウダイ」です!!!

アコウダイ

アコウダイは釣りものであればキロ1万円近い値を付ける超高級魚なので、通常は切り身か、料亭などでしかお目にかかることはありません。狙っても1年に1匹釣れるかどうかという希少な魚が、まさかこの場面で釣れるとは……! まさに代打逆転サヨナラ満塁ホームランです。こういうことがあるので深海釣りはやめられません。

アコウダイ

63cm、3.1kg。釣魚の記録を管理しているジャパンゲームフィッシュ協会(JGFA)のサイトによると、認定されているアコウダイの世界記録は3.04kgだそうなので(2018年4月現在)、今回のものは未認定とはいえ、レコードものでは!?

釣り上げたアコウダイは、水圧の変化で目玉が飛び出します。この状態から「メヌケ」などの名前で呼ばれることもあります。異形というわけではないですが、ちょっとおどろおどろしい見た目。銅蟲先生はこの魚をどのように食べさせてくれるのか、楽しみにしつつ、さっそく先生の仕事場へ。

巨大なアコウダイを下処理する

魚を見た銅蟲先生の一言「えらいの釣れたねぇ」。

小林銅蟲先生とアコウダイ

ソコダラの予定がまさかのアコウダイが釣れたため、今日はとりあえず下処理だけして、調理はまた後日にしましょうということになったので、まずはウロコ取り。

アコウダイのウロコ取り

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アコウダイはヒレの先端を切り落としておく

ヒレの先は非常に鋭利なので、先端を切り落としておきます。

アコウダイをおろす小林銅蟲先生

メスと小出刃を駆使し、丁寧におろす銅蟲先生。

アコウダイをおろす小林銅蟲先生

ヒレの根元の骨と、中骨に沿って滑らかに包丁を進める様子はもはや板前の風格。腹骨だけは硬いのでキッチンバサミで切っていきます。

アコウダイを2枚おろしに

今回は何か考えがあるようで、頭を付けたままの二枚おろしにして、いったんフィニッシュ。家庭用真空パック器でパックし、冷蔵庫で2〜3日熟成させます。

家庭用真空パック器

ちなみに、真空パックは鮮度を保ったまま保存できるので、全ての釣り人・ハンターの皆さまにオススメします。

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巨大なアコウダイをド派手に食べてみる

後日、改めて銅蟲先生のところへ。さて、どう調理しましょう?

うちのバカでかい寸胴鍋で丸ごと清蒸にしましょう

清蒸(ちんじょん)とは、魚の中華風蒸し料理のひとつで、紹興酒をかけた魚をネギ・ショウガと一緒に蒸して、熱した油を回しかけるという料理(異なる調理法もあります)。シンプルながら魚の美味しさを最大限に引き出すこの料理は、今回のアコウダイをはじめ、ハタやカサゴといったゼラチン質の多い魚を調理するのにとても向いています。そんなん、絶対美味しいに決まってるやんけ……!

そして、銅蟲先生の仕事場に存在するバカでかい寸胴鍋はこちら。

巨大な寸胴鍋

これひとつあればラーメンスープの仕込みから、高級食材で作るスープ「佛跳牆(ぶっちょうしょう)」の製造まで思いのままです。

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アコウダイの清蒸

それでも収まり切らないほど巨大な今回のアコウダイ。頭と尾びれを切り分け、多めの塩をすり込みます。

アコウダイの清蒸

蒸し皿にスライスしたショウガと筒切りのネギ、その上にアコウダイをのせて、紹興酒をしこたま振りかけます。

アコウダイの清蒸

皿ごと約1時間じっくり蒸します。その間に白髪ネギと千切りショウガを用意。

アコウダイの清蒸

近所で採取したノビル(野生ネギ)も一緒に使っちゃいましょう。これでちょっとは野食っぽさが出るはず。

アコウダイの清蒸

蒸し上がりました。

これに先ほどの白髪ネギと千切りしょうがをのせて、煙が出るぐらいキンキンに熱したゴマ油を回しかけます。

アコウダイの清蒸

じゅーっという音とともに部屋に充満するゴマ油の香ばしさ。これで完成です!

アコウダイの清蒸

まさかあの超高級魚アコウダイを、丸ごと蒸す日が来るとは……中華料理店で食べたらいくらかかるのでしょう。自分で釣ってきたからこそできる贅沢。そしてさすがは銅蟲先生、「やりすぎ飯」マスターの面目躍如です。

2人では食べきれないサイズなので、たまたま近所をぶらついていた野食友達に声をかけ、一緒に試食することにしました。

アコウダイの清蒸

いただきまーす。

……!

美味い!!

アコウダイの清蒸

皮はトロトロ、身はぷりぷりムチムチ、そしてほんのり甘みを感じるほどの濃厚なうまみが口いっぱいに広がります。

身だけだとややシンプルですが、ゼラチンお化けのような皮と、その下にある皮下脂肪がそれを補って余りあるほどで、合わせて食べることで口中にuniverseが爆誕します。紹興酒のコクのある香りが素晴らしいですね。

アコウダイの清蒸

さらに、皿にたまったエキスには、骨から出たうまみ成分が強烈に溶け込んでいます。これでカクテル作って飲みたいくらい美味しい。頬肉やヒレの付け根の肉のうまさは、もはや表現技法が見つからないほど。


3人で「美味い」「美味い」と言いながら食べ続けていると、あっという間に皿の上には残骸だけとなりました。素晴らしい時間だった。ぜひまた体験したいものです。

・・・

今回は水深500mのアコウダイを釣りあげましたが、1,000m超で釣れるベニアコウは、このアコウダイすらかなわないほどの美味だそう。なんだかドラゴンボールみたいな話でオラワクワクすっぞ! ベニアコウが釣れたらまた銅蟲先生のところに持ち込んで、超贅沢な料理にして食べたいものです。

この記事を読んで深海釣りをやってみたくなった方がいたら、まずは、竿やリールなどの道具が借りられる乗り合いの釣り船の利用をおすすめします。はじめはそこからで大丈夫です。

ぜひ、深海釣りの沼に皆さんもハマってみてください。そして一緒に行きましょう。


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著者:茸本朗

野生のものを採って食べて評価するブログ「野食ハンマープライス」管理人。著書に『野食のススメ –東京自給自足生活-』(星海社新書)。「美味しいものたべたい」がモットーで、美味しそうに見えたものは何でも口に入れる習性があるので、ときに「ゲテモノ食いが趣味なんですか?」と言われて落ち込む。好物はウツボ、天敵もウツボ。

ブログ:野食ハンマープライス Twitter:@tetsuto_w

社会的責任[CSR]