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2016年は「SMAP」の一年だった。楽天の年間ランキングから、今年の“ヒット”を読み解く

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Photo by Bill Ward

2016年は、どういう一年だったんだろう?

年の瀬になると、さまざまなメディアにそういうテーマの記事が並ぶ。この一年で流行ったもの、ヒットしたもの、トレンドになったもの。特にエンターテインメントの分野においては、そういうトピックをランキングから振り返る企画が続く。

僕自身も「音楽ジャーナリスト」という肩書きで仕事していることもあり、そういうタイプの原稿を書く機会が多い。特に年末はそう。やっぱり「紅白歌合戦」が大みそかの恒例として定着しているのが大きいのかも。

ただ、ここ数年痛感するのが「流行」というものがとても掴みづらくなっているということだ。人々の好みや価値観は、間違いなく多様化している。だから、ヒットという現象も、局所的に生じるものが増えている。

そのことを如実に示すのが、毎年12月に発表される「ユーキャン新語・流行語大賞」だと思う。

2016年の年間大賞は「神ってる」。広島東洋カープ・鈴木誠也選手の活躍を示す言葉だ。とは言っても、僕の周囲では「え? 知らないんだけど?」みたいな反応がわりとあった。言葉自体を知ってはいても「年間大賞となるとちょっと……」と違和感を覚えた人もいた。

ちなみに去年の年間大賞は「トリプルスリー」。こちらは東京ヤクルトスワローズ・山田哲人選手と、福岡ソフトバンクホークス・柳田悠岐選手が達成した記録のことで、やっぱり野球関連の言葉だ。

僕個人としては「トリプルスリー」は「なにそれ?」で、「神ってる」は「ああ、知ってる」だった。去年は野球に全く興味なかったけど、今年は横浜DeNAベイスターズのファンになって少しばかり野球関連のニュースを見るようになったという個人的な変化が一番大きかったのだと思う。

「『新語・流行語大賞』は結局『野球好きのおじさんの間で流行ってる言葉大賞』なのではないか?」みたいな声もあったのだけど、僕自身の実感としても、それはすごく腑に落ちる。

Photo by Vesna Tiricovska

そして、音楽という分野においても「ヒットがわからなくなった」という状況は同じ。

かつては、オリコンのシングル年間売上ランキングを見れば、流行っている曲というのが一目瞭然だった。でも、2010年代に入ってからはそうじゃない。複合チャートを導入しているビルボードや、配信やYouTubeやカラオケや、いろんなランキングを見ないと、本当のヒット曲が何なのかわからない時代になっている。

今の時代の「ヒット」の定義は揺らいでいる。ヒットの生まれ方も場所も多様になり、一つの指標で時代を感じることが難しくなっている。そういうことを、先日上梓(じょうし)した新刊『ヒットの崩壊』に書いた。

【楽天市場】 ヒットの崩壊の検索結果

たぶん、僕自身、音楽やエンターテインメントをただ楽しむだけじゃなくて、その作品が「時代の空気」というものとどう関わり合っているのかに興味があるタイプなのだと思う。そういう視点でランキングやヒットチャートを見るのは、結構楽しい。

というわけで、今回の記事では楽天市場の2016年年間ランキングはどうなっているのかをチェックしてみた。

hb.afl.rakuten.co.jp

2016年はSMAPの一年だった

まず、「楽天ブックス」での、シングルもアルバムもひっくるめたCDセールスの上位10位はこうだ。

1位 世界に一つだけの花/SMAP
2位 SMAP 25 YEARS(初回限定仕様)/SMAP
3位 Fantôme/宇多田ヒカル
4位 Power of the Paradise (初回限定盤 CD+DVD)/嵐
5位 I seek / Daylight(初回盤1+初回盤2+通常盤セット)/嵐
6位 Are You Happy?(初回限定盤 CD+DVD)/嵐
7位 復活LOVE(初回限定盤 CD+DVD)/嵐
8位 あの日 あの時/小田和正
9位 Just LOVE(初回限定盤 CD+DVD)/西野カナ
10位 THE JSB LEGACY(初回限定盤 CD+2DVD)/
三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE


そうだった。2016年はSMAPの一年だった。

熱狂的なファンじゃなかったとしても、今年になって「自分がSMAPをこんなに好きだったんだ」と気付いた人は多かったんじゃないかと思う。僕もそう。デビューしてから25年、SMAPは時には軽やかでユーモラスに、そして時には誠実で真っ直ぐに、常に時代の空気と向き合ってきた。

1995年の阪神大震災、そして2011年の東日本大震災のときに彼らが見せた行動も大きかった。だからこそ、今年は「国民的アイドル」としてのSMAPの存在感が多きく取り沙汰された一年だった。

1位と2位を独占したSMAPに続いて、3位は宇多田ヒカルの8年ぶりのオリジナルアルバム「Fantôme」となった。待っていた人も多かったと思う。久しぶりにポップ・ミュージックの世界の最前性に戻ってきた彼女が見せてくれたのは、やっぱり圧倒的な才能だった。やっぱり宇多田ヒカルは“特別”だった。

4位から7位には嵐のシングルとアルバムが並び、10位以内に入ったのは、小田和正、西野カナ、三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE。とても興味深い並びとなっている。

ONE PIECEの圧倒的な強さ

続いて「楽天ブックス」書籍の年間ランキングはこうだ。

1位 ONE PIECE(81)/尾田栄一郎
2位 ONE PIECE(82)/尾田栄一郎
3位 おやすみ、ロジャー/カール=ヨハン・フォルセン・エリーン
4位 ONE PIECE (83)/尾田 栄一郎
5位 進撃の巨人(19)/諫山創
6位 進撃の巨人(20)/諫山創
7位 天才/石原慎太郎
8位 全部レンチン!やせるおかず作りおき/柳沢英子
9位 小説君の名は。/新海誠
10位 MEKURU(7)/MEKURU編集部


こちらは『ONE PIECE』が圧倒的だった。81巻と82巻がワンツーフィニッシュの結果だ。83巻は4位となっているけれど、11月に発売されたばかりということを加味して考えると、ほぼ『ONE PIECE』が上位を独占していることになる。

もちろん『ONE PIECE』の人気は今年に限った話じゃない。ここ10数年にわたって、全ての巻の初版発行部数が数百万部を記録している。累計発行部数は3億4,000万部を超え、「最も多く発行された単一作者によるコミックシリーズ」としてギネス世界記録にも認定されている。

なので、気になったのは、そこに割って入った3位の『おやすみ、ロジャー』。この絵本がヒットしたのは、どうやら子育て中のママやパパたちの間で「子どもの寝かしつけがラクになった」という口コミが広まったからだという。読むだけで子供がぐっすりと眠くなるという心理学的効果が実証済みだとか。

5位と6位には『進撃の巨人』が続き、7位には石原慎太郎が田中角栄の姿を描いた『天才』。新海誠が書き下ろした『小説君の名は。』は9位となった。実は発売は6月で、映画「君の名は。」の公開は8月末だったが、映画公開前に50万部を突破。結果的に100万部を超える記録的なセールスを記録している。

また、10位に雑誌『MEKURU』がランクインしたのも興味深い。自宅での撮り下ろし写真やロングインタビューも含めて小泉今日子に迫ったVOL.7は、発売後に即増刷。書店で見かけないほどの反響を呼び、小泉今日子の衰えない人気を証明した形となった。

総合ランキングはシャンプー、水、コンタクト

そして、楽天市場全体の年間総合ランキングは以下。

1位 BOTANIST ボタニカル シャンプー/トリートメント/SALONIAオフィシャルサイト
2位 クリスタルガイザー(500ml×48本入)/爽快ドリンク専門店
3位 メダリストワンデープラス 90枚パック 2箱セット/シグマ コンタクト
4位 ミネラル酵素グリーンスムージー/Natural Healthy Standard
5位 クリスタルガイザー(500ml×48本入)/楽天24
6位 カラコン エバーカラーワンデーナチュラル/クイーンアイズ楽天市場店
7位 酵素ドリンク(コスミックエンザイム)/酵素飲料(エンザイム)の専門店
8位 ベルタ葉酸サプリ定期便コース/ベルタ楽天市場店
9位 コンパクト腹筋マシン ワンダーコアスマート/ショップジャパン 楽天市場店
10位 7種類の贅沢!しあわせミックスナッツ/自然の都【タマチャンショップ】


ちなみに「BOTANIST ボタニカル シャンプー/トリートメント」は2015年、2016年と2年連続で総合ランキングの1位でした。正直知らなかった。すごいな。ちょっとこれ試してみようと思います。

上位に並ぶのはシャンプー、水、コンタクト、酵素。おおよそいろんなものが売っている楽天市場での総合ランキングがこういう結果になるというのは、今の人々の消費に対する欲求というものを如実に反映しているように思えて、とても興味深い。

ちなみに。4位の「ミネラル酵素グリーンスムージー」は、わりと美味しくて毎朝飲んでいる商品だったりするのでちょっと嬉しい。

SMAPとONE PIECEの「仲間」論

というわけで。

総合ランキングはさておいて、CDと書籍のランキング1位がSMAPONE PIECEだったというのは、なんというか、「なるほど」と言わざるをえない結果だった。だって、どちらもまさに「国民的アイドル」と「国民的マンガ」だから。

考えてみると、SMAPとONE PIECEには二つの共通点がある。一つは、どちらも90年代、00年代、10年代にわたって、ずっと日本のエンターテインメントのトップを走り続けてきたこと。そしてもう一つは、その物語を引っ張ってきたのが「仲間」という関係性だった、ということ。

もちろんリアルとフィクションという違いはある。でも、SMAPも「麦わらの一味」も、キャラが立ち、それぞれに武器も違う、個性的で才能豊かなメンバーが集うグループだ。

そして、リーダーとして中居正広とモンキー・D・ルフィがいる。その関係性は、上下関係のはっきりした企業のような「組織」でも、一人のボスと数名の子分からなる「集団」でもなく、もちろん単なる友達同士でも仲良しグループでもない。「仲間」という言葉でしか表現できないような、フラットで、しかし深いメンバー同士の結びつきがある。そこに共通するポイントがある。

2016年は、天皇陛下の生前退位を巡る話題もあった。実際のところ、この話がどうなっていくのかは僕にはわからない。それでも、きっと、沢山の人が時代の変化の節目のようなものを感じたのではないかと思う。

そしておそらく、何十年か後から振り返ったときには、SMAPとONE PIECEは「平成」という時代を代表するポップカルチャーの象徴として語られるのではないかと思っている。そういう二つが、2016年のランキング1位になっていたのも、なんだか象徴的な話だな、と思ってしまった。


※CDおよび書籍の集計期間は、楽天市場が発表している年間ランキングと異なります。

関連リンク

【楽天市場】 SMAPの検索結果
【楽天市場】 嵐の検索結果
【楽天市場】 君の名は。の検索結果
【楽天市場】 ボタニカル シャンプーの検索結果
【楽天市場】 ミネラル酵素グリーンスムージーの検索結果

著者:柴 那典 (id:shiba-710)

柴 那典

1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立。雑誌、WEB、モバイルなど各方面にて編集とライティングを担当し、音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。

「cakes」にてダイノジ・大谷ノブ彦との対談連載「心のベストテン」、「リアルサウンド」にて「フェス文化論」、「コンフィデンス」にて「ポップミュージック未来論」連載中。著書に『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)がある。

ブログ:日々の音色とことば Twitter:@shiba710