それどこ

醤油研究家が送る「あなたに合った醤油」の見付け方。で、本当にオススメの醤油って何?

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で、本当におすすめの醤油ってなんなの?

こんにちは。醤油研究家として醤油に関するブログや「醤油手帖」という本を書いている杉村といいます。今回は醤油について、お話をしたいと思います。というのも、醤油という調味料はあまりにも身近過ぎるけれども、誤解や勘違いが多いものでもあるのです。

一番おいしい醤油って何なの?

皆さんが一番知りたいのは、ここだと思います。一番おいしい醤油を使いたいから、それを教えてほしい、と。でもこれが、難しい。この答えをあえて、ずばりひと言で言うならば

あなたが育った味わいの醤油が一番おいしい。

たとえば甘い醤油で育った人は、濃口醤油を味わうと「辛い」という感想が出てきますし、逆に濃口醤油で育った人は甘い醤油を味わうと「甘い醤油ってカレーの甘口みたいなのを想像していたけれども、本当に甘いなんて!」と思うでしょう。

なので、一番おいしいのが、地元の醤油、育った醤油であることは間違いありません。でも、それじゃあ回答としては優等生すぎて面白味に欠けるので、今回は「醤油の分類、そして分類別のオススメの醤油について」お話ししていきたいと思います。

醤油の分類

まず、知っておきたいのは、醤油は大きく分類すると5種類だということです。農林水産省のJAS(日本農林規格)で定められている醤油は以下の通り。

  • 濃口醤油
  • 淡口醤油
  • たまり醤油
  • さいしこみ醤油
  • 白醤油

その他のもの、たとえば「たまごかけご飯専用醤油」のような「だし醤油」は

  • しょうゆ加工品
  • しょうゆ調味料

に分類されます。皆さんが普段味わっている醤油について、この5種類 + 醤油加工品の中でどれに分類されているかをまず確認するといいでしょう。

今回は、この中から普段使いに良い「濃口醤油」「さいしこみ醤油」「たまり醤油」「だし醤油」を順に紹介します。

家庭の定番〈濃口醤油〉

濃口醤油は最も一般的な醤油です。醤油に占めるシェアは約85%。ほとんどの場合「醤油」といえば「濃口醤油」を指すと言っても過言ではありません。日本全国で造られているので種類が多く、ひと口に濃口醤油と言っても甘い物も存在します。

普段使いとしては何だかんだ言っても「空気に触れない容器に入った醤油」が一番楽でいいのですが、今日は職人さんが手がけた、昔ながらの製法で造られた醤油を紹介します。

1.入門醤油

濃口醤油の入門としてオススメするのは、弓削多醤油の「木桶仕込しょうゆ」です。

弓削多醤油「木桶仕込しょうゆ」

埼玉県の弓削多醤油は、全国でもかなり珍しい木桶での天然醸造にこだわっている醸造元。

醤油といったら木の桶で発酵されているものを職人さんがかき混ぜているイメージがあるかもしれませんが、現在ではステンレスやFRP(繊維強化プラスチック)製、コンクリート槽を使うこともあります。

弓削多醤油は全ての醤油を木桶で仕込んでいるので「木桶仕込しょうゆ」というわけです。

弓削多醤油「木桶仕込しょうゆ」

弓削多醤油「木桶仕込しょうゆ」の特徴

  • 濃口醤油のいわば入門醤油
  • 国内産の大豆と小麦で醸された醤油で、非常に香りが強く旨味とコクがある
  • 旨味が強いので、かけ醤油として使う際はいつもより少なめにかけるのがコツ
  • 料理に使うといつも以上にコクが深く。いろいろな料理に使ってみよう

2.“甘い”濃口醤油を味わってみたいなら

濃口醤油と分類されているものの中には甘い醤油もあります。どこを見ればいいかというと、裏のラベル。以下のように分類されます。

  • 「しょうゆ(本醸造)」と書いてあるのは甘くない醤油
  • 「しょうゆ(混合)」「しょうゆ(混合醸造)」と書かれているのは甘い醤油

甘い醤油の「混合」と「混合醸造」は、以下のように製造されます。

  • 混合方式:もろみを絞った後にアミノ酸液を加えて火入れ(加熱殺菌)する
  • 混合醸造方式:大豆と小麦を発酵させる「もろみ」の段階で、アミノ酸液を入れて一緒に発酵・熟成させる

アミノ酸液が入っているので、旨味や甘味を感じるのですね。戦後の物がない時代に編み出された製法なのですが、これが美味しく、また地域の食文化に合ったため、大豆などがしっかり手に入るようになった今でも造り続けられています。

このジャンルは、九州の醤油に多かったりします。というわけで、宮崎県の長友味噌醤油醸造が造る「カネナ醤油」はどうでしょうか。
宮崎県「カネナ醤油」

ひと口に九州の醤油は甘いといっても、甘味の強さは同じではありません。南にいくほど甘さは強くなります。鹿児島県の醤油が一番甘いと覚えておくといいでしょう。

では隣接している宮崎県はというと、縦に長いせいか少し特殊でして。

南は甘さの強い醤油が、北はしょっぱさのあるものが好まれています。このカネナ醤油は、そのちょうど中間を目指して造られているとのこと。甘いけれども甘すぎないので、普段食べ慣れていない人が甘い醤油に挑戦するにはぴったりといえます。

宮崎県「カネナ醤油」

宮崎県「カネナ醤油」の特徴

  • 関東の「濃口醤油」の基準から考えるとかなり甘い
  • 新鮮な歯ごたえのある白身魚の刺身につけるのがオススメ
  • お餅につけて焼けば、砂糖醤油要らず
  • 煮物に使うと味醂(みりん)がなくてもしっかり甘味がつく

強い旨味が特徴の〈さいしこみ醤油〉

さいしこみ醤油は、主に中国地方で造られ、使われている醤油です。最近では全国で広まりつつあるとはいえ、シェアはわずかに0.9%。味わったことがない人もいるかもしれません。

さいしこみ醤油は、地方によっては「甘露醤油」や「さしみ醤油」と呼ばれます。

一度醤油を造ってからもう一度醤油を造る、原料を2倍近く使う贅沢な醤油です。旨味が強いため、甘露という名前がついたり、淡泊な白身魚の刺身につけて旨味を補うところからさしみ醤油の名前がついているというわけです。

定番醤油

さいしこみ醤油でオススメなのはヤマロク醤油の「鶴醤(つるびしお)」です。

ヤマロク醤油「鶴醤」

ヤマロク醤油は小豆島の醤油蔵。「鶴醤」は、まず二年間じっくり熟成させて濃口醤油を造ります。そこでできあがった濃口醤油を使って、さらにまた二年間熟成させる、計四年間の歳月をかけて造り上げられる醤油なのです。

ヤマロク醤油「鶴醤」

ヤマロク醤油「鶴醤」の特徴

  • さいしこみ醤油のいわば入門醤油
  • 強い旨味ながらも口当たりが優しく、深いコクとまろやかさがある
  • 刺身だけでなく、料理に使ってもOK。深い旨味とコクで、普段の料理がよりおいしく
  • ちょっと変わった味わい方として「バニラアイス」に合わせるのがオススメ。旨味とコクが加わり、普通のアイスが高級アイスに早変わり

より濃厚な旨味ととろみが特徴の〈たまり醤油〉

たまり醤油は、醤油の原点とも言うべき醤油。

簡単に説明すると、醤油は味噌を造る際に“たまった液体”がベースになっています。水分が多くて失敗してしまったと思いきや、その液体をなめてみるとおいしかった……そこから醤油が生まれたのです。非常に旨味が強く、ドロッとした醤油です。

この旨味の強さは、原料にあります。濃口醤油は大豆と小麦を同じぐらいの量で造るのですが、たまり醤油は「大豆のみ」もしくは「大豆90%小麦10%ぐらい」と、大豆が多くなっています。

ざっくりと言うと、大豆は発酵すると「旨味」に、小麦は発酵すると「甘味」になるため、大豆中心のたまり醤油はとても濃厚な旨味を持っているというわけです。その旨味は、あまりに強すぎて、濃口醤油のつもりでたっぷり刺身につけると、慣れないうちは胸焼けになってしまうかも!?

たまり醤油はシェアが1.6%、主に中部・東海地方で造られ、消費されています。

1.入門醤油

最初は山川醸造の「漆黒」を味わってみましょう。

山川醸造「漆黒」

岐阜県の山川醸造が造るたまり醤油に、だしを入れて味わいを調整した「だし入りたまり醤油」です。水を加えれば「めんつゆ」としても使用できます。

山川醸造「漆黒」

山川醸造「漆黒」の特徴

  • 四倍ぐらいの水を加えると、めんつゆとしても使えるほどの濃厚さ
  • 旨味だけではなく、鰹や椎茸のだし、砂糖や味醂の甘味が合わさった甘い味わいが広がる
  • 醤油の旨味が突出しすぎていないため、あらゆる場面で使いやすいが、かけ醤油として使うのがオススメ
  • 女性にはアボカドにかけて食べるのがオススメ

2.とろみを存分に味わいたいなら

ドロッとしたたまり醤油を存分に味わいたい上級者には、同じく山川醸造が造る「みのび」を。

山川醸造「みのび」

つけ醤油、かけ醤油として使うと、初めのうちはその旨味の強さにびっくりするかもしれません。

山川醸造「みのび」

山川醸造「みのび」の特徴

  • 濃口醤油の三倍ほどの濃縮度で、とても濃厚でとろみがある
  • 普段と同じ量で使うと醤油の味が勝つので、料理に使う際はいつもの七割ぐらいの量で
  • 濃口醤油に少しブレンドすれば、濃口醤油の旨味と風味が増すのでお好みで

3.小麦が気になる人はグルテンフリーの醤油

たまり醤油は、小麦を使わないグルテンフリーな醤油としての面もあります。みのびや漆黒は小麦を使っていますので、丸又商店の「尾張のたまり」とかはどうでしょうか。

丸又商店「尾張のたまり」

愛知県の丸又商店は、小麦を使わない、大豆のみの醤油を造っています。スーパーなどで見たことがある方もいるかもしれません。使う材料にこだわり、オーガニックや有機認証を受けた物を使っています。

丸又商店「尾張のたまり」

丸又商店「尾張のたまり」の特徴

  • 小麦を使わないグルテンフリーの醤油
  • つけ醤油として使う場合は、赤身の刺身に少量だけつけて食べるのがオススメ
  • 加熱したときの香ばしさと旨味の強さから、料理に使うなら煮物や焼き物に合う
  • 濃口醤油に少しブレンドすれば、濃口醤油の旨味と風味が増すのでお好みで

かけ醤油、つけ醤油、料理、まさに万能調味料〈だし醤油〉

だし醤油は「醤油」とついているのですが、正確にはJASで定められている「醤油」ではなく、「しょうゆ加工品」です。ちょっとややこしいですよね。醤油に何かを加えて新しい味を生み出している調味料と考えるといいでしょう。だし醤油の場合は、もちろん「だし」を加えています。

だしを加えることのメリットに下記があります。

  • 醤油とかけ合わせることで、だしの風味や旨味が膨らむ
  • 減塩になる

だしの風味や旨味は醤油によって膨らみます。旨味は組み合わさると、足し算ではなく「かけ算で膨らむ」と思ってください。だしの旨味と醤油の旨味は、合わせることで別々に味わうよりも何倍もに膨らむのです。

もう一つのメリットである減塩は、醤油にだしを加えるわけですから、塩分濃度が下がります。そうなると、同じ量を使っても塩分摂取量は少なくて済むというわけです。

おいしいし、減塩にもなるということで、だし醤油は年々消費量が増えているジャンルでもあります。一方で「醤油」の消費は徐々に下がっており、県によっては、醤油よりもしょうゆ加工品の方が消費量が多いところもあります。

1.塩分が気になる人にぴったりの定番醤油

そんなだし醤油で、まず味わってもらいたいのは香川県の鎌田醤油の「だし醤油」です。

鎌田醤油「だし醤油」

日本で一番有名なだし醤油かもしれません。

一度使うとはまってしまってやみつきになり、パックで一度にたくさん買う人も多い醤油です。塩分は約11%と、濃口醤油の平均に比べると25%ほど減塩になっているので、まずは醤油をこれに置き換えるだけでもちょっとした減塩生活を送ることができます。

鎌田醤油「だし醤油」

鎌田醤油「だし醤油」の特徴

  • 濃口醤油の平均と比べると25%ほど減塩
  • 昆布、かつお節、さば節の旨味がたっぷり
  • つけ醤油、かけ醤油、料理に使ってよしの他、少し薄めるだけでうどんのスープにも使えるなど、まさに万能調味料

2.もう一つの定番醤油

もう一つ、味わってもらいたい定番だし醤油といえば広島県のアサムラサキの「かき醤油」です。

アサムラサキ「かき醤油」

その名前の通り「牡蠣」の旨味がたっぷりと含まれただし醤油です。

アサムラサキ「かき醤油」

アサムラサキ「かき醤油」の特徴

  • 牡蠣に加えて、かつお、椎茸、昆布の旨味や風味、砂糖や味醂による甘味などが合わさり、風味豊かな味わいが広がる
  • かけ醤油や薄めてつゆとして使うもよし、料理に使ってもよしの万能調味料
  • 特にたまごかけご飯にかけて使うのがオススメ

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醤油はまだまだたくさんの種類があり、それぞれの地域によって味わいが変わります。だからこそ、その「土地の料理の味の基本になる調味料」といえます。まだまだ紹介したい醤油はたくさんありますが、比較的万人受けしやすい、癖が強すぎないものをセレクトしてみました。

今回紹介したものを実際に使って気に入ったら、そのジャンルの醤油にあれこれ手を出してみるのも楽しいと思います。皆さんが奥深い醤油の沼(?)にはまることを、どっぷり頭まで浸かった状態でお待ちしております。


著者:杉村啓 (id:shouyutechou)

杉村啓

醤油やお酒を愛し、そのおいしさ・楽しさ・奥深さについて広める活動を行うライター。料理漫画研究家でもある。著書に『白熱ビール教室』『白熱洋酒教室』『白熱日本酒教室』(星海社)、『醤油手帖』(河出書房新社)ほか。京都在住。

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