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【2巻以内で完結するオススメ漫画】ブログ『良いコミック』管理人が選ぶ、読んでほしい5作

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こんにちは、KT.と申します。普段は2009年から更新している「良いコミック」というブログで、主に装丁の視点から漫画を紹介しています。

ブログでは年に1回、その年に発売されたコミックから、お気に入りの装丁を紹介する「漫画装丁大賞」を実施しているほか、デザイナーさんごとの作品、通巻作品の装丁、日本作品の海外版表紙などを特集しながら、漫画の表紙の楽しさを伝えることをライフワークにしています。

今回寄稿の話をいただいて、普段やっていないこと……と考えた結果、普通にオススメ作品を紹介することにしました。さくっと読んでいただけるように「2巻以内で完結する作品」という条件を設けて、以下5作に絞りました。

※ 編集部注:ネタバレが気になる方は、上記の目次で紹介を読みたい作品にジャンプしてください。

長い道(全1巻)/こうの史代

太平洋戦争前後の広島・呉を舞台にした劇場アニメ『この世界の片隅に』がヒットし、原作の売り上げも絶好調とくれば、こうの史代先生の作品を広めるチャンスでは……とまず紹介したいのがこちら『長い道』(双葉社)です。

浮気はする、仕事は続かない、妻の人の良さにはとことん甘える、と真性の駄目人間夫・荘介を、ノー天気な妻・道がその生活力でカバーして面白おかしい毎日を送っていく……といった内容になっていて、ジャンルはコメディーやギャグ分類の作品になります。

貴方の心の、
現実の華やかな思い出の谷間に、
偽者のおかしな恋が
小さく居座りますように。

こちらは、こうの先生によるあとがきの一節で、単行本の帯のコピーとしても使われた文章です。

荘介と道は、飲み屋で知り合った親同士が勝手に決めた結婚話に、冗談半分で付き合った結果、夫婦になります。それを「偽者のおかしな恋」と言っており、本作では面白おかしい毎日の中で「偽者」が「本物」になる過程を描いてます。

その過程はタイトル通り「長い道」。1話は3、4ページと短く、そのほとんどのラストがギャグで落とされるので、2人は本当に少しずつ距離を縮めていきます。

しかも、回想やモノローグなどを使った分かりやすい感情の吐露、心の声などは一切なく、終始一貫したギャグ描写の中に心の機微がしっかり描かれていて、なんでもない2人のお話を最後まで読み終えたとき、長編作品を読み終えた確かな満足感が残ります。

映画をきっかけに『この世界の片隅に』(双葉社)を手に取った方が次に手に取りそうなこうの先生作品は、と考えると、テーマが近い『夕凪の街 桜の国』(双葉社)になりそうですが、こちらの作品に寄り道するといいことがありますよ、とオススメしたい作品です。

ウツボラ(全2巻)/中村明日美子

ウツボラ』(太田出版)はミステリー作品です。

事の始まりは、美少女「藤乃朱(あき)」の転落死。顔が潰れた彼女の携帯に残った履歴は、双子の妹「三木桜」と、作家の「溝呂木(みぞろぎ)」のたった2人。溝呂木は朱の書いた「ウツボラ」という小説を盗作しており、双子の妹を名乗り、朱と同じ顔をした桜の出現に困惑しつつも、「ウツボラ」の続きとなる原稿を手に入れるため彼女に近付く……というストーリー。

ミステリー的に「双子」「顔の無い死体」を謎として提示した小説「ウツボラ」をめぐる物語は、溝呂木、桜、事件を調べる刑事、盗作の事実を知ってしまった編集、盗作を疑う友人作家など複数の人物を巻き込み、耽美な、そして官能的な描写をふんだんに交えて(ダイレクトに言うとエッチな描写増し増しで)その謎に迫っていきます。

この作品は、物語の構成にポイントが2つあります。

  • 大きな謎に対する「答え」が最後まではっきりと描かれない
  • 謎を解くヒントは作中のいたるところに散りばめられている

盗作に手を染め苦悩する作家の物語は美しく完結するのですが、肝心な謎の答えは、あえてどちらとも取れるようなあいまいな表現で言及されて終わるため、さらっと読むと解釈の余地を多く残した物語にも見えます。

しかし、この作品はミステリー。刑事がつかんだ手がかりの中、漫画ならではのさらっと描かれた無音描写の中、エッチな回想の中……。さまざまなシーンにかなり緻密な伏線が張り巡らされているので、読み込めば読み込むほど、鍵を握る人物たちがどう思い、どう行動して、どうなったか、そのほとんどを理詰めで解き明かすことができます。今ならWeb上に“野生の解答”も転がってますので、あわせて読むとよりいっそう楽しむことができます。

加えると伏線が丁寧でフェアなので、今も週刊少年マガジンを買って『金田一少年の事件簿』で解答編前に真相を当てたり、『僕だけがいない街』で細かい描写を読み込んで犯人を特定したりするのが好きなミステリー漫画ファンにも、程よい難易度で謎解きできる作品としてオススメできます。

NKJK(全2巻)/吉沢緑時

NKJK』(双葉社)は、お笑いをテーマにしています。

名門私立女子高校に通う主人公・西宝夏紀は、不治の病に倒れて入院生活を余儀なくされた親友・富士矢舞の母親から、「娘を笑わせてください」と頼まれます。娘を救うため、人体の免疫力を高める「NK細胞」を笑いで活性化させるためというワラにもすがるお願いですが、主人公はこれを聞き入れます。

「笑い」には疎い主人公が、親友と同じ病院に入院するお笑いマニアの少女・榎本りん(10歳)を師匠に迎え、同級生を巻き込みながら持ち前の真面目さで「笑い」の研究を行い、親友で実践していく、そんなお話です。

病院+笑いということで、物理的に血反吐を吐く友人の前でお笑いを披露しつつ、「不謹慎なだけの、間抜けで無駄な行為だったんじゃないか」と自問自答する主人公。「不謹慎」や「配慮」という言葉がまとわりつく中で笑いを狙っていく、かなり挑戦的な作品だと思います。

そもそも、漫画作品でお笑いというテーマは扱いが難しいようで、例えばプロがお客さんをネタで笑わせるシーンを描くとき、ネタそのものが面白くないとお話の説得力が損なわれる可能性が出てきます。「漫画家の漫画」や「小説家の漫画」における作中作問題と同じですね。

しかし、この作品の場合はネタを披露するお客さんは友達1人で、笑いは「手段」、目的は「友達を救う」。「全員が面白い」という笑いが出てこないため、必ずしも面白がる必要がないんです。この読み手の気楽さは、何気にポイントだと思っています。

2冊のデザインの揃った表紙を見て分かるように、泣いても笑ってもお話は2巻できっちり完結します。お笑いをテーマにしたストーリー作品としてオススメです。

ひみつの階段(全2巻)/紺野キタ

不思議な寄宿舎を舞台に、少女たちの青春を描いた『ひみつの階段』(偕成社/ポプラ社)。

最後のエピソードが2002年発表と結構前の作品で、入手困難な時期を挟みながら新装版が出たり完全版が出たりと、買える・買えないを繰り返していたのですが、いつの間にか電子書籍版が刊行。本作がいつでも手に入る良い時代になりました。

すべて1話で完結する連作短編の形を取っていて、毎回異なる主人公が歴史のある校舎や寄宿舎で不思議な出来事に遭遇しつつ、少しずつ成長していくということで、ジャンルとしては少女漫画区分のファンタジー作品です。起こる出来事はというと、

  • 気付いたら焼け落ちて存在しない階段を上っていた
  • 部屋でなくした消しゴムが広間の吹き抜けから落ちてきた
  • 不思議空間で過去(未来)の在校生とお茶会をした
  • 4月になると焼けてなくなったはずの桜の木が、幻の花びらを散らす
  • 寄宿舎の友達が違う人(?)と入れ替わる

など、少し不思議なものから少しどころではなく不思議なものまでさまざま。こういったSF(すこしふしぎ)ものとしての本作の特徴は、不思議現象と少女たちとの距離感です。中には現象にがっつり振り回されるエピソードも入りますが、大体のエピソードでは悩める少女が一歩進む、その背中をちょっと後押しするくらいの不思議が起こるのにとどまります。

物語を引っ張りすぎない、ささやかな非日常感の配分が心地よくて、読後感がとても爽やかなんですね。1話1話の時系列がバラバラで、中には時空を超えて繋がるエピソードが存在していて、読み解いていく楽しみもあります。絵柄は乙女チックですが、癖が無くすっきりと透明感があり、男性でもかなり読みやすい部類に入ると思います。

また、10年以上も前の作品ではありますが、寄宿舎というある種の非日常空間を舞台にしていること、普遍的な内容を扱っていることで、今読んでも古臭さをほとんど感じさせません。

生活【完全版】(全1巻)/福満しげゆき

最後に紹介するのは、福満しげゆき先生の『生活【完全版】』(講談社)です。

福満先生といえば、『僕の小規模な生活』(講談社)『うちの妻ってどうでしょう?』(双葉社)などエッセイ漫画方面での活動が目立っているというか、先生の「妻」が目立っているように感じられますが、『就職難!! ゾンビ取りガール』『中2の男子と第6感』(ともに講談社)などのストーリー漫画も素晴らしく、もっとこっちにリソースを割いてください!と常日頃思います。その中でも1冊で完結してオススメしやすいのがこちら。実際には2冊分くらいの分量があります。

フリーターの青年と、超人的な身体能力でいたずらをする少年の出会いから始まった犯罪まがいの世直し活動が、女子高生や若者殴り魔のオジサンを仲間に加えて大きくなり、その組織は自警団、そして警備会社と規模を大きくし、そして腐敗し、やがては主人公たち初期メンバーは組織と対立することになり……というお話。アクションやバトルを盛り込みながらストーリーは進むので、ジャンル的にはアクション作品ということになるんでしょうか。

小さなきっかけから始まった話が徐々に大きく、そして怪しく広がっていく展開が実にハラハラ、ドキドキで、ちょっとありえないような出来事にも、個性的でありながら普通の域を出ない登場人物たちによって絶妙なリアリティが与えられています。起承転結が映画的なエンターテインメントに仕上がっていて、実際に実写映画化もされているんですが、そこはひとまず置いておいて、映画化したら面白いだろうなと想像を膨らませてしまうような面白さを持っています。

§

以上、2巻以内に完結するオススメ漫画でした。

巻数は少ないながら、どれも読み応えはバッチリです。ぜひ気軽に読み始めてみてはいかがでしょうか。

著者:KT.

KT.

茨城県出身の漫画好き。近年の漫画単行本におけるカバーデザインの多様化に興味を持ち、WEB上にひたすら表紙を貼り続けている。著作『良いコミッ クデザイン』。

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