それどこ

些細な手間を細やかに積み重ねることで「センスのいい人」は、できている〈雨宮まみ「運命のもの、どこで買えますか?」第4回〉

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セレクトショップ「Eckepunkt」と筆者

 「センスのいい人の頭の中って、どうなってるんだろう?」と思うことがある。

 このスカーフをこのブラウスのここに巻いて、ここにアクセサリーを着けるなんてことをどうして思いつけるんだろう? こんなに合わせるのが難しそうな靴をなぜこんなにあっさり履きこなせるんだろう? このワンポイントだけで印象がまったく変わるってことをどうやったらイメージできるんだろう?

 それは、並のセンスしか持たない人間にとって、ほとんど魔法のように見える。私の知っている中でその魔法を使えるひとりが、アクセサリーデザイナーの小野桃子さんだ。

 以前、バスの中で、通路を挟んで隣側に座っている女性が持っているバッグがかわいくて、「どこで買ったんですか?」と聞こうかどうしようか悩みながらチラチラ見ていたことがある。まだ梅雨に入りたてで、そろそろ夏用のバッグが欲しいな、どんなのにしようかな、と考えていた頃に、理想的な大きさの使いやすそうなかわいらしいかごバッグを持っている女性がいたのだ。

 かごバッグというと、見た目は素敵でも、素材が硬いと中に入れるものの融通が利かなかったり、服にひっかけたりしそうで苦手なのだが、そのバッグは繊細で、でも夏らしい爽やかさや、軽やかなかわいらしさはあって、作りが雑でなく裏地がついていて、大人っぽくエレガントという理想的なものだった。

 バス停でバスを降りようと席を立ったそのとき、バッグの持ち主に「まみさん!」と呼ばれた。驚いてよく見れば桃子さんで、そのバッグは桃子さんの最新作だった。

筆者がバスの中で惹かれたかごバッグ
筆者がバスの中で惹かれたかごバッグ(Eckepunktでの展示)

 そんな桃子さんのアクセサリーに興味を持てないわけがない。「センスのいい人の頭の中」への答えを、少しでも見つけるまたとないチャンスだからだ。

 小野桃子さんは桑沢デザイン研究所出身。しかし、桑沢ではアクセサリーデザインを学んではいないという。卒業後、最初はただ自分の欲しいものを作れる範囲で作って、身に着けていた。

 転機は、金沢からやってきた。金箔を作っている会社でコンサルタントをしている友人が、「金箔以外の商品を出したいから、何か作ってみない?」と桃子さんに声をかけてきた。材料庫に金の糸がたくさんあったのを見て、「かぎ針で編んだらかわいいかも」と思いつき、最初に作ったのが、現在も桃子さんのブランド・LAMEDALICO(ラメダリコ)の定番商品である「本金糸ブレスレット」のシリーズだ。

筆者が最初に身に着けたLAMEDALICOの本金糸ブレスレット
筆者が最初に身に着けたLAMEDALICOの本金糸ブレスレット

 金糸に天然石を編み込んだこのブレスレットは、非常に軽く、着けていることを忘れるほど華奢なものなのに、金と石の輝きで手首を彩ってくれるアクセサリーだ。

 私は、以前はこうした華奢なアクセサリーの良さがわからなかった。「こんなに小さかったら、着けてるか着けてないかわからない」と思っていたし、インパクトのあるもの、大ぶりのもののほうが、アクセントになって着ける効果がある気がして、得した気持ちになっていた。

 だけど、それこそ桃子さん本人のアクセサリーのコーディネートを見ていると、華奢なものにもしっかりアクセサリーとしての効果があることがわかる。光や色の繊細な積み重ねでできていく世界があると気づかされる。

 お洒落とは、単品じゃなくて「重ねていくこと」なのだ。私は単品でしかお洒落のことを考えてこなかった。いい服があれば、インパクトのあるアクセサリーをひとつ着けていれば、それでいいと思っていた。けれどそうじゃなくて、細やかなディテールの積み重ねで、雰囲気というものは作られていくのだと知った。

 LAMEDALICOのアクセサリーは普段、ブランドのWebショップか、自由が丘のセレクトショップ・Eckepunkt(エッケプンクト)*1か、金沢の金箔のお店*2だけでの取り扱いになっているが、ときどき展示会があり、そこではたくさんの新作を見ることができる。もちろんその場で買って帰ることもできる。

 今年、Eckepunktで6月18日から展示があると聞き、私は初日の朝一番にお店に向かった。一点ものも多く、売り切れてしまえばもう二度と手に入らないから、誰よりも先に全部を見て選びたかったのだ。

Eckepunktの店内でさっそくコサージュを手に取る筆者
Eckepunktの店内でさっそくコサージュを手に取る筆者

 お店には、これまでに見たことのないものが並んでいた。新作だから当然なのだが、そういう意味ではない。「こんなものも作れたの!?」と驚くものが、たくさんあったのだ。アクセサリーだけでなく、バッグ、ヘッドドレス、コサージュまである。現在も彫金や帽子作りを学んでいて、できることが増えているのだそうだ。

 コサージュに使用しているお花も、自分でひとつずつ染めて色をつけて、コテをあてて作っているという。その話を聞き、アクセサリーを「作る」って、いったいどこから始まる作業なんだ、と気が遠くなりそうになる。


お花はひとつずつ染めてコテをあてて作る

 実はお花は、2010年に一度作ったことがあったのだそうだ。それで気が済んで、しばらくの間作っていなかったのだが、最近そのときに作ったものを見てみたら「今ならもっとうまく作れる」と欲が出て、作り始めてしまったという。

 課題を与えられなくても、ひとりで見つけて腕を上げて、過去の欠点を見つめている。こんな話は、友人としてはまったく聞いたことがなかった。「完成度を上げる」こと、「もっといいものを作る」ことは、おそらく彼女の中で、話すまでもなく当たり前すぎることなのだ。

 今回ひときわ目立っていたのが、友人でもある美容ライターの長田杏奈さんとのコラボレーションで作ったという、インドシルクのチョーカースカーフだ。

インドシルクのチョーカースカーフ
インドシルクのチョーカースカーフ

 今年はスカーフが流行っていて、頭に巻いたりするためにゴムが入った、スカーフ風ターバンなどの商品もよく出回っているが、頭にも首にも巻けて、安っぽくなく、大人も着けられるものがない。長田さんに「こういうのが欲しいんだけど」と言われ、「作ってあげるよ」と引き受けたことが始まりという。詳しくイメージを聞くうちに話が膨らみ、商品として扱うことにした。

 チョーカースカーフは3種類あり、黒の生地でラインストーンのパターンが違うものが2種類と、シルバーグレーの生地にプリントが入っているものがある。プリントは、白鳥のモチーフを中心に、自分でスタンプのような型を作って染めたそうだ。

黒のチョーカースカーフ(ホリー)を着ける著者
黒のチョーカースカーフ(ホリー)を着ける著者

 これも「作るって、そこから!?」と思ってしまうところである。イメージに合うものがなければ、作る。いや、イメージそのままのものなんてどこにも売ってないからこそ、作るのかもしれない。

 そうして出来上がったチョーカースカーフは、巻いてみるとシルクの肌触りが軽く、普通のスカーフのように厚ぼったくならない。しかも、普通の細いチョーカーを着けると、首の太さが目立ってしまう私が着けても、首が太く見えない。計算された太さなのだろう。

シルバーグレーのチョーカースカーフ(スワン)を着ける著者
シルバーグレーのチョーカースカーフ(スワン)を着ける著者

 また、着けて初めてわかったけれど、動く度にラインストーンが想像以上に光り、顔が映える感じがする。大ぶりのネックレスを着けたくらいの効果があるのに、大ぶりのネックレスよりずっとカジュアルに、身近な感覚で着けられる。布だから手首にも巻ければ頭にも巻けるし、帽子にも巻ける。着ける人のトレードマークになりそうなアクセサリーである。

同行した編集者にチョーカースカーフを巻く筆者
チョーカースカーフは人によって好みや似合うものが異なるのが面白い

 3種類の中で似合うもの、好きなものが、人によってはっきり分かれるのも面白い。

 私は、黒地でラインストーン使いが上品な「ホリー」(『ティファニーで朝食を』のホリー・ゴライトリーのイメージ)か、もうちょっとラインストーンが多めでゴージャスな「バーレスク」に目をつけていたのだが、実際に着けてみると、「シルバースワン」がいちばんしっくり来た。わからないものである。

 他の新作も非常にかわいく、クラゲの形のピアスも気になったが、それは私よりも友人のほうが良く似合うので譲り、私は最初からずっと気になっていた、大きなグリーンのスクエアカットのブレスレットと、伸縮性のあるリボンにラインストーンを組み合わせた、足首にぴたりと巻きつく形のブライトカラーのアンクレットを買うことにした。

友達に譲ったクラゲのピアス
友達に譲ったクラゲのピアス

人気商品のブレスレット
ブレスレットは、webショップに入荷後数時間で売り切れる人気商品になっている

定番のアンクレット
定番のアンクレットは、はっきりした色と太さで足首のアクセントになる

 選び終わっても、なかなかその場を離れられなかった。売れてしまったら、二度と見ることができないものもある。自分に似合うものではなくても、もの自体がかわいくてもう少し見ていたいものもある。

 何より、これだけのものをひとりでデザインし、材料をそろえ、染めたり縫ったり編んだりして作っているのだ。そう思うと、彼女の世界の中にいる感じがして、もう少しいたい、という気持ちになった。

 桃子さん本人は「どうして私はもっとかっこいい感じのアクセサリーが作れないんだろう?」と悩んだこともあったそうだ。「何を作っても、こうなっちゃう」と。

 何を作っても、少しロマンチックで、エキゾチックで、夢見がちなかわいらしいものになってしまうことに対して「このままではだめなのではないか」みたいな気持ちを抱いたことがあったそうだ。けれど「自分はこうなんだから」と諦めるように迷いを振り切ってから、作るのがまた楽しくなった。

LAMEDALICOの小野桃子さん
LAMEDALICOの小野桃子さん

 材料屋さんにいるときがいちばん楽しくて、「これでこういうのを作ったらどうだろう?」というイメージが次々にわいてきて、いいものがたくさん作れる気持ちになる。

 けれど、実作業に入ると、思い通りのものができなくて「あれ?」と一度つまずくのだそうだ。そこから、どうやって最初のイメージに近づけていくか、その試行錯誤が最大の作業だと桃子さんは言う。

 「毎回が実験で、毎回が勉強」だと言うが、彼女はイメージに近づけるために労力を惜しまない。本当に些細な手間の部分を、ものすごく細やかに積み重ねてLAMEDALICOのアクセサリーは作られている。

定番の絹糸のミサンガブレス
定番の絹糸のミサンガブレス

象のイヤリング
LAMEDALICOのシンボルマークである象のイヤリング

貝をモチーフにしたイヤリング
貝をモチーフにしたイヤリング。どことなく人魚姫の世界を思わせる

赤いフリンジが中国風のピアス
赤いフリンジが中国風のピアス。上品かつ華やかな雰囲気に

 LAMEDALICOのアクセサリーは、細やかなディテールの積み重ねで雰囲気を作っていくというお洒落の本質の部分に、気軽にそっと触れさせてくれるところがある。

 でも、お高くとまっていなくて、自分の中の縛りからそっと心を解放してくれる。「好きに、自由に使ってみてね」と書いてあるみたいだ。かわいいだけじゃなくて、手にしたこちらに楽しむ気持ちを、遊ぶ気持ちを与えてくれるアクセサリーだと思う。

ヘッドドレスを持つ筆者
戴冠式のようにヘッドドレスを持つ筆者

※ブランドホームページ LAMEDALICO / Twitter [twitter:@lamedalico]
2016年9月30日(金)から10月2日(日)まで、渋谷Nidi galleryにて展示販売会を開催予定

著者:雨宮まみ (あまみや・まみ id:mamiamamiya)

雨宮まみ

ライター。アダルト雑誌の編集者を経て、フリーライターに。女性の自意識との葛藤や生きづらさを描いた自伝的エッセイ『女子をこじらせて』(ポット出版)をはじめ、『ずっと独身でいるつもり?』(KKベストセラーズ)、『女の子よ銃を取れ』(平凡社)、『東京を生きる』(大和書房)、『自信のない部屋へようこそ』(ワニブックス)など著書多数。

戦場のガールズ・ライフ @mamiamamiya