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それどこ

日曜の夜、静かなキッチンで生豆を炒る ―― コーヒーと私

いつからコーヒーを飲むようになったのか、よく覚えていない。―― ハンドドリップを始め、カフェケトル、コーヒーミルと道具を揃え、生豆を買って、キッチンで焙煎する。ゆっくりとしたコーヒーとの関係について、ブログ「マトリョーシカ的日常」の局長(id:kyokucho1989)さんによる寄稿です。

いつからコーヒーを飲むようになったのか、よく覚えていない。

大学の研究室に配属されてしばらく経ったころだろうか。当時、私のデスクには青白いコーヒーのビンが置かれていた。ネスカフェの香味焙煎だった。研究に行き詰まると、私はカフェインの力を借りた。生協で買った紙コップに粉末をわずかに入れ、ポットからお湯をそそぐ。スティックタイプの砂糖を半分だけ混ぜ入れる。一口飲み、二口飲み、息を吐く。

良い解法が思いつくときもあったし、まったくダメなときもあった。しかし、幸せな時間であったことは確かだ。

大学を修了する少し前にハンドドリップを始めた。それまではインスタントばかりを飲んでいたが、もう少しこだわりたかった。

私がいま使用しているミルとカップ

ハンドドリップはコーヒーをいれる手法の1つだ。ドリッパーという漏斗にペーパーフィルターをセットし、その上からコーヒーの粉を入れる。ゆっくりとお湯を注ぎ入れれば、おいしいコーヒーができあがる。単純で、必要な器具も少ない。

私はペーパーフィルター(200枚入り600円)と、1〜2人用のドリッパー(300円)を購入した。コーヒーは粉末状のものを近所のスーパーで398円で買った。サーバーは1人分を入れるだけなので必要なかった。

はじめて自分でいれたコーヒーはまったくおいしくなかった。あとで調べると、粉を入れる量が少なすぎたらしい。1杯あたり10グラムが目安だが、私はせいぜい2、3グラムしか投入していなかった。それからはちゃんと10グラムを測ることにした。

そのころ、自宅にはやかんがなかったため、私は鍋でお湯を沸かすと直接ドリッパーに注いでいた。もちろん普通にやったらこぼれるので、菜箸を橋渡しさせた。これでできないこともないが、面倒なのでケトルを買うことにした。

ラッセルホブスのケトル

目を付けたのがラッセルホブスのカフェケトルである。電気ケトルなので沸かすのも楽だし、なにより速い。0.8リットル入るものを購入したが、水道水を一杯まで入れてスイッチを押すと2分程度でお湯が沸く。先口がとても細く、お湯を少しずつ注ぎ入れることができる。

就職した年の夏にミルを導入した。ミルを使えば、常に挽きたての状態で味わうことができる。コーヒーは焙煎後、空気に触れると酸化し、味が落ちてしまう。粉の状態では表面積が増えて、酸化のスピードが増す。それだから挽きたてのコーヒーはおいしいのだ。

もらったミルにはフタがなく、粉砕するときに豆がはじけて外へ飛び出してしまった。現在はフタがついているミルを使っている。

以前使用していたミル

飲みはじめてからは、いろいろな銘柄を買った。産地や煎り具合により味の違いがあるらしいが、私には細かく判別できない。市販のコーヒーはだいたいおいしいのでどれを選んでも間違いはないだろう。重要なのは銘柄ではなく、飲む環境だ。

月に1回か2回、近所の喫茶店へいく。昭和の雰囲気が漂う店内で、高倉健に似たマスターがコーヒーを出している。テーブルは焦げたような黒色で、どれも艶がある。椅子はグランドピアノについているような赤いベロア椅子だ。出てくるモーニングはいたって普通のメニューだが、満足感が違う。環境がコーヒーをおいしくすることを身をもって理解した。

§

こうして黒々としたカフェインを毎日とるようになると、より安いものを求めるようになる。インスタントコーヒーも十分に安いが、私はハンドドリップを楽しみたい。そして出会ったのが、生豆を購入し、自分で焙煎する方法である。

市販の豆は既に焙煎された状態で販売されているため、その分割高である。ところが生豆は焙煎前の状態なので、非常にリーズナブルだ。焙煎された豆は200グラムで1,000円程度だが、生豆は1キログラムが1,200円くらいで売られている。前者は1杯あたり50円なのに対し、後者は12円とかなりお得である。早速わたしは生豆を注文した。

コーヒーの生豆

ついに来るところまで来てしまった。注文した生豆は、布団圧縮袋のようなものに包まれて届いた。ハサミを入れるとぷしゅっと膨らみ、同時に抜け気味の香ばしい匂いがした。

焙煎方法についてネットで調べてみたがよく分からなかった。とりあえず火が均等に入ればいいのだろう。フライパンに適当な量の豆を入れて、見切り発車で火にかけた。数分経つと、豆の色が白から黄色っぽく変化してきた。菜箸でチャーハンのように混ぜる。

フライパンで焙煎

しかし、あまり変化がないのでフタをし、待つことにした。数分するとバチバチと音がした。開けてみると、豆は不均一に焦げていた。失敗したようだ。ザルにあげて皮を取り除き、小さめのビンに詰めた。それぞれに色のついた豆がほどよく収まる。

体裁を整えてやると、案外見られるものになっていた。

それから何度も挑戦しているが、未だに「これだ!」という焙煎ができたことはない。絶対に市販のコーヒー豆のほうがおいしい。けれどもなんだろう? この達成感は。

いつ火がついたか分からないコーヒーブームは、ゆっくりと、しかし確実に私の実生活を浸食していった。「趣味と呼べるほどハマってはいない」と思っているが、焙煎された豆が少なくなると、「あぁ、炒らなきゃ」と不思議な義務感を抱く。日曜の夜、静かなキッチンで私は生豆を炒る。明日の米を研ぐように。

著者:局長 (id:kyokucho1989)

局長

1989年生まれ。26歳O型男。職業はワクワクさん。趣味はつくってあそぼ。タイムカードを二度押してすぐに帰ってくるような人生を過ごしたい。

ブログ:マトリョーシカ的日常

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