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それどこ

私を大胆にしてくれる街、京都で見つけた新しい宝物

〈文・雨宮まみ〉海外旅行に出かけるとき、どんな言葉を覚えていくかに、その人が表れる、と感じたことがある。ある友人は「Wi-Fiありますか?」だと答えたし、ある友達は食材と料理の名前だと答えた。私は「試着できますか?」である。旅先で買い物をするのが好きだ。と言うと、まるでバブル世代のように映るかもしれないが、私が買うのはほんのささやかなものだ。

文と写真 雨宮まみ

海外旅行に出かけるとき、どんな言葉を覚えていくかに、その人が表れる、と感じたことがある。ある友人は「Wi-Fiありますか?」だと答えたし、ある友達は食材と料理の名前だと答えた。私は「試着できますか?」である。

旅先で買い物をするのが好きだ。と言うと、まるでバブル世代のように映るかもしれないが、私が買うのはほんのささやかなものだ。

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去年から今年にかけて三度、関西に行く機会があった。関西といえば、東京と並ぶ女の買い物のメッカ、京都がある。名所もたくさんあるけれど、それより私には行きたいお店があった。

まず、『mille(ミル)』(PHP出版)という雑誌に載っていた、Cocoaという出口麻里さんの個人ブランドのアクセサリーが欲しかった。アンティークレースを型にして作られていて、京都のgris-gris(グリグリ)というお店でしか取り扱っていない。私は『mille』を作っている編集者の丹所千佳さんと仕事でメールのやりとりをしたことがあったので、これを機に丹所さんともお会いして、その特集を担当した丹所さんご本人にお店に案内してもらうことができた。

そのとき、Cocoaのアクセサリーは品薄な時期だったけれど、私は細いシルバーのリングを2つと、アンティークの指輪を1つ買った。毎日着けるような定番の指輪を持ちたいとずっと思っていたので、その買い物で手元の定番が決まったのが嬉しかった。

アンティーク(左端)とCocoaのアクセサリー

アンティーク(左端)とCocoaのアクセサリー

そのあとは、友達のメレ山メレ子さんおすすめのウサギノネドコというお店に行った。どういうお店か説明するのが難しいのだが、貝殻や鉱石や、植物をアクリルキューブの中に閉じ込めたものなどを売っているお店である。そこで、大量のアクリルキューブを見て、2つ選んで買った。

このアクリルキューブは、その後東京のお店で何度か見かけたが、「ああ、東京でも売ってたのか」というガッカリ感はない。「どういう流通でここまで来たのかな?」と思ったりもするし、ウサギノネドコ以上に大量のアクリルキューブを置いている場所には、今のところ出会っていない。そこにしか売っていないものを目当てに行く、というのも楽しみのひとつだが、ウサギノネドコやgris-grisは、店がひとつの世界観を表現しているようなお店だから、店に行ってそれを体験することのほうがずっと楽しいことなのだ。

アクリルキューブに閉じ込められた2つの植物

アクリルキューブに閉じ込められた2つの植物

ウサギノネドコに置いてある鉱石も可愛らしくて美しく、心惹かれたが、その後、ここの鉱石を扱っていて『鉱物アソビ』という本を出されているフジイキョウコさんと恵比寿のギャラリーで偶然出会い、個展にうかがって気に入った鉱石を買うことができた。

好きな場所には好きな人が関係している、というのは、たくさんの買い物をしてきて実感することのひとつだ。

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翌日は、ガイドブックに載っていた裏具(うらぐ)という文房具屋さんに行った。

「ほんとにここ?」というような路地の中の、込み入った場所にある。本に載っていた、柄が違うものが複数入った、活版印刷で刷られた箱入りの一筆箋を、紙ものが好きな友達へのお土産にしようと思ったのだ。実物は思いのほかかわいらしく、味わいがあって、結局自分の分も買った。

柄違い6種類の一筆箋が箱に納められている

柄違い6種類の一筆箋が箱に納められている

このお店の帰りに、前日に会った丹所さんがすすめてくれた鍵善良房(かぎぜんよしふさ)のZEN CAFEに行ってみると、ガラスの箸置きに繊細な白い模様が入っている。

和菓子はもちろん、コーヒーの美味しさもずば抜けていたが、味を堪能している最中(さいちゅう)も、その箸置きがとても気になった。それはレースガラスというもので、隣のギャラリーでちょうど個展が行われており、たくさんの作品を見ることができた。

一度はそのまま帰ろうとしたが、次の角にさしかかった瞬間、強烈に後ろ髪を引かれ、我慢できずにくるっと振り返って店に戻り、小さなグラスをひとつ買った。

白い繊細な模様が美しいレースガラスのグラス

白い繊細な模様が美しいレースガラスのグラス

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今年の4月に京都に行ったとき、私はまずgris-grisを再訪した。Cocoaのゴールドの指輪が入荷していることをTwitterで知っていたからだ。

その日は指輪1つ、ピアス1つを買ったが、ホテルに戻っても、店で見かけたワンピースがどうしても忘れられない。翌日、どしゃ降りの雨の中、壊れてあてにならないiPhoneをバッグにしまい、PARASOPHIAでもらった京都の地図を片手にまた店に行き、ワンピースを2着、試着して買った。かなりの散財である。そのうちの1着は、真っ白なワンピースだった。

旅先では、ものの見え方が変わるのが面白い。自分の好みはもちろんあるし、それが消えてなくなるわけではないけれど、東京と関西では人気のあるものが全然違ったりする。そして、それぞれの店で何が「良いもの」とされているか、という価値観もまったく違う。

その土地や店の価値観と、自分の好みが混ざり合うとき、これまでは選ばなかったものが視界に入ってくる。汚すだろうし、真っ白なんて目立ちすぎる、と思っていた白いワンピースなんか、その一例だ。

あのとき、あのお店の中で私は「目立って何がいけないの?」と思えたし、旅先だから冒険をする気になった。そのワンピースは、今年のプロフィール用の写真を撮るときに着た。

私はものが好きだから、日常生活でも旅先でも、ものを見るのがやはり楽しい。その土地にしかないものはもちろんだが、東京にもあるものが、まるで違うもののように見える瞬間も好きだ。

私にとって買い物は、コミュニケーションの手段でもあるし、自分の世界や価値観を拡げる手段でもある。旅先で買ったものは、出会った人との思い出にもなるし、自分が冒険して見つけた宝物にもなる。

そして、一度気に入ったお店を見つけると、それは次の旅の動機になる。また訪れたい場所があると、旅に小さな目的ができる。「次はあれを買いたい」とか、「どんな新しいものが揃えてあるかな」

とか考えながら、次の機会を待つ間も、楽しいものだ。

著者:雨宮まみ (あまみや・まみ id:mamiamamiya)

雨宮まみ

ライター。アダルト雑誌の編集者を経て、フリーライターに。女性の自意識との葛藤や生きづらさなどについて幅広く執筆。

著書に『女子をこじらせて』(ポット出版)、『ずっと独身でいるつもり?』(KKベストセラーズ)、『女の子よ銃を取れ』(平凡社)、『タカラヅカ・ハンドブック』(新潮社)、『東京を生きる』(大和書房)など。東京を生きる

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