それどこ

MURDERPOLLENの森で天然石のアクセサリーを摘む〈雨宮まみ「運命のもの、どこで買えますか?」第2回〉

天然石の森にたたずむ筆者(スパイラルビルの1Fにて)

天然石の森にたたずむ筆者(スパイラルビルの1Fにて)

運命の人に出会うコツは知らないけれど、運命のものに出会うコツは知っている。私がmurderpollen(マーダーポーレン)というアクセサリーブランドを知ったのは、友達のチカちゃんが着けているピアスがかわいくて、「それどこの?」と訊いたときだ。

チカちゃんは、murderpollenは店舗のないブランドで、ときどきスパイラルビルの1Fやデパートの催事に出店していること、インスタグラム(@leonardo_abc)で情報が得られることを教えてくれ、「天然石中心のブランドだから、たぶんまみさんも好きだと思う」と言ってくれた。そう、私は天然石が好きなのだ。

そうしてインスタグラムを見続けているうちに、スパイラルビルで展示販売が行われることを知った。タイトルは「Michikusa」。ちょうど友達とスパイラルで待ち合わせがあったので、そのついでに寄ろう、と行ってみると、天井まで届くほどの枝付きの花、木、緑で埋め尽くされた空間の中に、色とりどりの天然石のアクセサリーが並んでいる。

緑で埋め尽くされた空間に色とりどりの天然石

緑で埋め尽くされた空間に色とりどりの天然石

一歩足を踏み入れた瞬間、目が離せなくなった。どれも本当に美しいのだ。「あれもきれい、これもきれい」と目移りして、とても最初は選ぶどころではない。2周目ぐらいでやっと「もし自分がつけるなら、どういうものがいいか」と考えられるようになってきた。

私は珊瑚が好きなんだ。石はブルーやグリーンが好きなんだ。そういうことを思い出しながら見ていると、店員さんが「気になるものがあれば、こちらのトレイに一度置いておいてください。ピアスも全部、試着していただけますから」と言ってくれる。

選ぶ前に鏡の前で合わせてみるのだけど、大好きな赤枝珊瑚が思っていたよりも似合わなかったり、予想外の色のものがなぜか気になったりして、「いつもの自分っぽいもの」と、「いつもの自分なら選びそうにないけど、似合うかもしれないもの」をいくつか選んで、着けさせてもらった。

鏡の前で合わせてみる気になるものをトレイに選ぶ

大きくても大丈夫な指輪ボリューム感のあるネックレス

murderpollenのアクセサリーは、ピアスもネックレスもリングも、かなりボリュームのあるものが多い。大きさにひるんでしまう人もいるかもしれない。それが、着けてみると全然印象が変わる。色が自然に肌になじんで、「異物が顔についています」という感じにはまったくならないのだ。似合うものであればあるほど、溶け込んでしまう。

ネックレスなどは、インスタグラムで見ていたときから、ボリュームにちょっと手強さを感じるほどの大きさだったのに、着けてみるとパッと顔が映えるのだ。これを体験してしまうと、ほかのものでは代わりがきかない、こんなアクセサリーはここにしかない、と、はっきりわかってしまう。

自分が好きなはずだったものよりも、思いもよらないもののほうが、はっきり似合ってしまい、私はそれを買った。黒い線が入ったガーデンクオーツが不規則に垂れ下がるピアス。試着していなければ、たぶんこの色は選ばなかった。

思いもよらない素敵な買い物になったピアス

思いもよらない素敵な買い物になったピアス

素敵なピアスが買えたことも嬉しかったけれど、それよりも、これまで知らなかった「自分に似合うもの」を教えてもらえたようで、とても楽しい買い物だった。

「森の中で、迷ったりしながら好きなものを探してほしい」

MURDERPOLLEN 山本亜由美さんインタビュー

後日、再度この期間限定ショップを訪れて、デザインと製作を手がけている山本亜由美さんに少しお話をうかがうことができた。

――まず、murderpollenというブランドについてですが、いつ頃からされているのですか?

18年前からです。最初の2年は、OLと兼業でやっていました。

――今は天然石の作品が中心ですが、どのようにデザインを考えていかれるのですか?

もともとは石だけでなく、革や、いろんな素材を扱ってきたんです(※今でも、革を使った作品はあります)。でも今は、石を見つけたら、そこから「この石をこんなふうに組み立ててみたい」というイメージが湧くので、まずは石屋さんに行くところから始まります。こうしよう、と決めてから石を選ぶのではなく、石を見てそこから考えていくような形ですね。

草花と、植物のような石の森で「Michikusa」しているよう

草花と、植物のような石の森で「Michikusa」しているよう

――スパイラルの展示では、草花の多さに驚きました。こうした展示のコンセプトも、山本さんご自身で考えているのですか?

できればいつも、森の中にいるようなイメージにしたいんです。石は、まるで植物のように見えるものも多いので、道端にある花を摘んで髪に挿すようなイメージで着けてみてほしいんですよね。

――今回のテーマは「Michikusa」ですが、それも森の中の道草のイメージなんでしょうか?

それもあります。でも、真っ直ぐな道よりも、紆余曲折ある人生のほうが面白いでしょう? お買い物も、そんなふうにいろいろ迷ったりしながら好きなものを探してほしいなと思って、こういう名前をつけました。

――私も実際、かなり迷いながら買い物をしましたが、ピアスが試着OKというのも珍しくて驚きましたし、接客もとても丁寧で、買い物の体験自体がとても楽しかったです。それは、ブランドの姿勢としてそういう接客をされているのでしょうか。

そうですね。まず、ピアスの試着についてですが、耳って人によって大きさも向きも形も全然違いますよね。だから、できれば着けてみてほしいんです。デパートなどの決まりで、衛生面からできないこともある(※スパイラルの展示では、試着するごとにアルコール殺菌をしていました)のですが、可能な限りは試着をして、納得のいくものを選んでほしいんですね。

お洋服でも、やっぱり試着してみないとわからないことってありますよね。アクセサリーも同じだと思うんです。実際に着けてみて、その人だけの野の花、宝物を見つけてほしいと思っています。

赤い石の小鳥のピアス

赤い石の小鳥のピアス

――実際に、着けてみると、自分が似合うと思い込んでいたものとは違うものが似合うこともあって、驚かされました。いろいろ欲しくもなるのですが、これ!と思ったものを、しばらく大事につきあうように着けてみたい、という気持ちにもなりました。

私たちも、もちろんたくさん選んでくださるのも嬉しいんですが、そういう風に大事に使っていただけるとより嬉しいんです。流行とは違っていても、自分だけに似合うもの、気に入ったもの、その人のためのものを見つけて、大事にしてほしいんです。

不思議なもので、私たちがおすすめしなくても、みなさん最初にハッと自分で気がついて、自分に似合うものを手に取ってくださることが多いんですよ。見ているうちにだんだん「こっちのほうが合わせやすいかな?」とか「普段使いしやすそう」とか、いろいろ雑念が入ってくるんですけど(笑)。でも、結局は最初のインスピレーションに従って選んでいかれる方が多いです。

――デザインも製作も、山本さんが全部お1人でされているのですか?

デザインはすべて私です。製作も7割は私1人でやっていますね。お手伝いの方にお任せできる部分はお願いしてるんですが、基本は1人です。自分で考えて自分で作るほうが、イメージをダイレクトに出せるので、こういうやり方のほうが長く続けられるのかなと思うんです。

ただ、最近は作業の量も増えてきているので、もう少しこう、自分を追い込むような方向ではなく(笑)、違うパターンでの製作も考えていきたいところです。

ただし、ハンドメイド、アトリエメイドという部分は、絶対にこのままでいたいですね。

たくさんの草花が描かれた「Michikusa」のフライヤー

たくさんの草花が描かれた「Michikusa」のフライヤー

大ぶりでもなぜかなじんでしまうmurderpollenのアクセサリーは、山本さんが石をまるで植物のように考えているからなのかもしれない、とも思えたし、「決してお値段がお安いものではないので」という言葉を交えながら、本当に似合うものを見つけてほしいと語られる言葉には、ものを作って売る人の誠実さが感じられた。

気にいるものがなければそのまま立ち去っても良いし、きれいだなと思ったら手に取ってみればいいという、どこか気楽で、爽やかな風が感じられるような空間での展示を見るのは楽しく、また自分に似合うものを探しに出かけてみたくなった。

murderpollenの展示スケジュールなど

  • 7月2日(土)から14日(木)まで、大阪 ANdo 家具とアンティーク にて個展
  • 7月25日(月)から8月21日(日)まで、スパイラルマーケット青山にてピアス展
  • 7月27日(水)から8月9日(火)まで、「新宿乙女雑貨店」に参加(新宿伊勢丹5階センターパーク)
  • 詳細は murderpollen マーダーポーレン公式サイト@leonardo_abc_ を参照
  • Instagramのハッシュタグ #murderpollen でも作品を見ることができます

著者:雨宮まみ (あまみや・まみ id:mamiamamiya)

雨宮まみ

ライター。アダルト雑誌の編集者を経て、フリーライターに。女性の自意識との葛藤や生きづらさを描いた自伝的エッセイ『女子をこじらせて』(ポット出版)をはじめ、『ずっと独身でいるつもり?』(KKベストセラーズ)、『女の子よ銃を取れ』(平凡社)、『東京を生きる』(大和書房)、『自信のない部屋へようこそ』(ワニブックス)など著書多数。

戦場のガールズ・ライフ @mamiamamiya